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5 爪先は踏まずに
ジェラと話をしているとお嬢様がいつの間にかいなくなっていた。由々しき事態だ。
「貴様のせいだぞ!ジェラード・ドーラー!!」
「まあまあ落ち着けってアルバ。お前がいなくなったビアンカ嬢の居場所ほど見つかりやすいもんはねえって。」
ほら、と笑って指を指す(本来は良くない)先にはたくさんの雄の人集りがあった。そこには微かではあるがピンクの髪がのぞく。
「お嬢様ァァァ!!!」
思わず飛び上がり、シャンデリアの高さで宙返りから捻り技を繰り出しお嬢様の隣へ立つ。
「大丈夫ですか!!」
するとその時ちょうどお嬢様の手をとっていた雄が私を見て怪訝そうな顔をした。
「アルバ…!貴方ね、
「これはこれはジャックライン殿。お初にお目にかかります。私は湖を挟んで向かいのレイアード領のバニラ・レイアードと申します。この度はレオンハルト殿の記念すべき日に。」
お嬢様の小鳥のような言葉を遮る、名前の通りバニラのような色の髪を内側にくるんとさせた中性的な顔立ち。だがそのお嬢様を握る手が許せん。お嬢様の手からバニラの手を振り払い礼を言う。
「こちらこそ、挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。アルバ・ジャックラインと申します。こちらもレイアード様は存じておりました。私と同じ歳でありながら十五の時からレイアード領を治めるその統率力、大変私どもも勉強になります。父上にも伝えさせていただきますね。」
「ありがとうございます。本日はお嬢様にお話があるのですが、少しよろしいでしょうか。」
ここまでの殺気と形相に引かないとは…ある意味大したものだ。
「お生憎ですが、ビアンカの縁談話は私が一任されております。魔法含む全てにおいて私に勝る方でないと、彼女を任せる訳にはいかないと決めているのです。」
周囲が若干ざわつき、ジェラはおいおいという顔をしている。お嬢様は少し顔が赤いような気もする、やはり人混みは空気が重くなるから早く捌けさせたい。しかし真正面のバニラは口角を上げた。
「では私がジャックライン殿を超えていればその時は妹さんを私にくださる、いえこの場にいる誰であろうとくださるということで宜しいので?」
バニラやほかの男は構えのポーズをする。
「ビアンカを物のように扱うのは良くありませんな。多勢に無勢、どうしようというのです?ここは父上の誕生パーティー、社交の場です。少なくともこの場でそのような体勢になる方たちはそこまでの男、と判断致しますが?」
フライングで飛んできた魔法を消し去る。これが私の一つ目の魔法だ。全ての魔法を自分の望み通り消滅させることが出来る。バニラは静かにため息をつくと笑った。
「これはこれは失礼いたしました。ではまた次の機会にでも。〝お兄様〟。」
バニラが退散したことにより、お嬢様の周りの雄たちも散らばった。お嬢様にバルコニーへ引っ張られる。そこは静かで自然と二人きりになった。お嬢様は頬を膨らませている。とても可愛らしい。
「アルバ、余計なことはしないでよ。その、恥ずかしいじゃない。」
「ここはお父上の誕生会です。お嬢様に手を出す不届き者を見逃すわけにはいきません。」
「もーう。貴方はいつもこうなんだから。」
頬を軽く赤らめ、目線をそらす彼女は一枚の絵になりそうだ。人混みにはまだしばらく出さない方が良さそうだ。そんなことを思っていると私の服の裾をちょんとお嬢様はつまむ。
「でもね、嬉しかったよ。ありがとう。」
「…。」
ああ、嗚呼。フリーズして体が言うことを聞かない。
「あっアルバ!?ちょっ。」
思わずバルコニーにしゃがみこむ。お嬢様は心配そうな声だ。返事ができなくて申し訳ない。嬉しさがカンスト、とはこれのことなのか。
「お、お嬢様ぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁ!こらっアルバ!」
立ち上がってお嬢様の腰あたりを掴んでくるくるとバルコニーを回る。
「ほんっとうに愛らしいです!お嬢様ぁぁ。」
そんなことをしていたが、遠くを見つめたお嬢様が若干青ざめていることに気付く。恐る恐る振り返るとそれこそ般若の顔をしたミレーナが拳を作っていた。
「おーふーたーりーとーもー!!!!ジェラード様に呼ばれてきたんですー!」
それから彼女に二人が追いかけ回されたのは言うまでもないだろう。
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