6 寝覚めの桃色

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6 寝覚めの桃色

「それじゃあ、行ってくるわね。」 ハーフツインにした髪を靡かせ、鞄を持つお嬢様。馬車に乗り込み、学校へ行く準備は万端だ。ああ、来世は馬になりたい。 「いってらっしゃいませ。」 一同例をし、お嬢様を見送る。昨日の誕生日会は酷い有様だった。いや傍から見れば大成功なのだが。散々追っかけ回された後、ミレーナのおかげで変な女たちと仕方なしにダンスをすることになってしまった。お嬢様もあのバニラ・レイアードという輩と楽しげであったし、思い出すだけでふつふつと怒りが蘇ってくる。 「ほーら、イライラしないアルバ様。貴方はご公務がまだ残っているんですからね。」 「誰のせいだと。」 「何か言いました?」 「いいえ。」 これだから次期メイド長は。昨日も主は笑ってらっしゃったが、正直このような会はもう懲り懲りだ。近々お嬢様の学校で魔法総合体育会がある。名前の通り魔法を使って競技を行う大会なのだが、お嬢様の最終学年は狂気の二人三脚がある。 「昨夜の雄どもに勘違いされては困ります。お嬢様はただでさえ才色兼備、生徒会長まで務める方なのですから。」 「…はあ。私はアルバ様が目を光らせてる限りほかの方が手を出すのは厳しいと思いますよ。」 「どうですかね。最近の若者は恐ろしいですから。私なんかうるさい小姑くらいに考えているかもしれません。」 「これで小姑とか、まだジェラード様の噂の口煩いおば様のがましに思えますわ。では、私はこっちなので。」 皆それぞれ自分の仕事へ戻っていく。私はまず昨夜来てくれた客人たちからきた文の返事をしていかねばならない。レオンハルト家は王家の血筋を引く家だ。それなりの名家が手紙にも名を連ねる。 「レイアード、なあ。」 もちろんそちらからも文はきていた。湖を挟んで向こうの領地だ。私と同い年の次期領主がいたとは聞いていたが、侮れないな。私と同い年ではあったが病弱か何かで同じ学校ではなかった気がする。 「一応、ジェラードに聞いてみるか。」 「お、頼られてるなあ。それはありがたいねえ相棒?」 「…は?」 目の前にいるジェラードに驚きを隠せない?よっと貴族らしからぬ仕草をする友人はなぜレオンハルトの屋敷にいるのか。 「なぜお前が!?ここにいる?」 「あ、お前昨日やけになって馬鹿なほど酒飲んで潰れてたもんな。覚えてないか。」 「寝覚めは良い方だからな。後始末をさせてしまったか。申し訳ない。」 なるほど。私を介抱するために泊まらせてしまったか。酒癖が悪いわけではないが飲んだ後の記憶がなくなってしまうのは自分でも困りものだと思っている。 「まあ変なことビアンカ嬢に言う前で良かったじゃないの。人前であそこまで飲むたあお前も結構きてたのな。」 この友人は私のことは何もかもお見通しのようだ。私が潰れることを見越して、昨日こいつは酒を嗜む程度にしか口にしていなかったのか。 「ごほんごほん…それはすまなかった。いや歳をとるにつれ酒について耐性がなくなってくる。」 「かまわないさ。相棒のためだ。こんなの安いものだよ。うーん、このお茶いいね。ハーブ?お前の作ったやつかな。」 この典型的な白馬の王子様のような男は私の部屋のど真ん中で格好にそぐわない胡座をかいて大の字で寝転んでいる。 「よくわかったな。この前摘んだばかりのものだ。でもハーブじゃないんだよ。東洋の国で取れるピンクの花びらをね、塩漬けにして茶にしたんだよ。」 「知ってる!桜だね。従姉妹が留学に行ってた。とてもいい味だ。」 うむうむと床にティーカップを置き、ゴロゴロするジェラ。ティーカップを回収しに参ると足首を掴まれた。 「で、レイアードの話?だっけね。まあお前よりは知ってるよ。昔の頃の話だけどな。」 不敵な笑顔でジェラは笑った。
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