猫を追いかけた日

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全てを話し終えた後、保の顔は泣いてぐちゃぐちゃになっていた。杏菜の瞳にも、たくさんの涙が溜まっている。 「佐古さんは最後に・・・『あんなあいしてる』って言ってました。それが・・・最後の言葉です」 全て終わったと思っていた零斗の死。まさかこんなところで、真相に辿り着けるとは思わなかった。零斗の愛を改めて感じて、胸がぎゅっと痛くなる。 「あんなさんにだけ話して欲しいって言われたので、ずっと探してました。東京にいるっていうのは報道で知ってたので、お年玉で東京に探しに行こうと思ってたところだったんです・・・」 「零斗が・・・会わせてくれたのかもね。ありがとう、話してくれて」 杏菜がそう言うと、保はまた大粒の涙を流して泣き出した。 「本当に・・・本当に、すみませんでした。僕のせいで・・・佐古さんが・・・僕が猫を探してなんて言わなければ!」 「保くんのせいなんかじゃないよ。これは事故だったんだから、誰も悪くない。1人で抱えて辛かったでしょ?・・・ごめんね、零斗が最後に無理なお願いしちゃって」 杏菜は手を伸ばすと、向かいの席に座る保の頭をポンポンと撫でた。すると保は驚いたように目を見開いた。 「それ・・・」 「え?」 「佐古さんと同じ・・・佐古さんも僕が不安な時、頭をポンポンってしてくれました」 「・・・そっか。一緒にいる時間が長かったから、似たのかもね」 杏菜はそう呟きながら、零斗の大きな手を思い出す。 零斗は杏菜が不安そうにしてると、必ず頭をポンポンと撫でてくれた。そんな大きくて優しい手が、大好きだった。 零斗が自分にしてくれていたことを、自然と保にしていたのだ。 「零斗が、怖くて辛い思いをさせてごめんね。無理かも知れないけど・・・どうかこのことは忘れて、保くんは幸せに生きて」 「2人は本当に似てますね。佐古さんも最後、同じようなこと言ってました。僕は大丈夫です。佐古さんみたいに強くて優しい大人になります」 その言葉を聞いて、杏菜は安堵した。 保が強くてしっかりした子で良かった。この出来事がトラウマになってしまって、生活に支障が出たら可哀想だと思ったが、本人は大丈夫と言っている。 零斗は確かに優しかった。でも優しすぎて、きっと脆かった。 保には優しいだけではなくて、芯のある強さを持って欲しいと願いながら、杏菜は保と別れた。
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