最後の誕生日

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どんなに優しくされても、どんなに愛していても結局彼は手に入らない。 彼には完璧な家庭がある。本当は独り占めしたい。お金なんていらないから、ただずっと傍にいて欲しい。 しかしそんな気持ちを零斗に言えるはずもなく、杏菜は嬉しそうにニコニコと笑うことしか出来なかった。 自分の正直な気持ちなんて伝えてしまったら、もう二度と会ってくれなくなるかも知れない。 杏菜にとって一番耐えられないことは、零斗に会えなくなる事だった。少しでも会えるのであれば、不倫でも何でも良い。 「甘い・・・チョコの味がするね」 ザッハトルテを食べ終わった後、零斗は杏菜の唇に優しく自分の唇を重ねる。 「・・・ん、零斗も甘いよ」 そのままベッドに杏菜を押し倒し、激しいキスの雨を降らせる。そして2人はお互いに夢中になった。甘くてとろけそうなキスの味。愛おしい零斗のぬくもり。このまま時間が止まって欲しいと、杏菜は強く願う。 「あっ、いたっ」 愛撫が深くなり、零斗が着ていたシャツを脱ごうとした時、杏菜から声が上がった。 「あ、髪の毛、ボタンに絡まってるね。夢中で気付かなかった。ごめん」 「ううん、私も・・・夢中だったから」 よく見てみると、零斗のシャツのボタンに長い杏菜の髪の毛が絡まっていた。オシャレな零斗のシャツは、少し変わったデザインのボタンだった。おうとつの柄が入ったボタンは髪の毛に絡みやすいらしく、零斗が外そうとしてもなかなか取れない。 「ごめん・・・なかなか取れなくて。もう少し待って」 「うん、大丈夫。でもなんかさ・・・」 「ん?」 「もう零斗と離れられない、離れちゃだめだよって言われてる気がする」 「杏菜・・・」 「ごめん、冗談」 至近距離で見つめてくる零斗の視線を外して、杏菜は苦笑いをした。そんな杏菜の唇を零斗は黙って塞いだ。もう何も言えなくて、そうすることしかできなかったのだ。 しばらく切ないキスをして、悪戦苦闘しながらもなんとか杏菜の髪の毛をボタンから外した。そして甘い時間が再開する。 「あっ・・・あっ」 「・・・杏菜、可愛い、愛してる」 夜が深くなるに連れ、杏菜の甘い声は激しさを増していく。今日の零斗はいつもより激しく、貪るように杏菜を求めてくる。そして何度絶頂に達しても、離してはくれなかった。 「零斗・・・も、私・・・だめっ」 「・・・分かった。じゃあ、これで最後にするね」 杏菜がついにギブアップをして、零斗が離してくれたのは明け方だった。 こんな零斗は初めてで、杏菜はぐったりとした体をベッドに沈めながらも驚いていた。
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