最後の誕生日

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「ねぇ、零斗。何か・・・あった?」 「ん?どうして?」 「だって、こんなに沢山求めてくるの、珍しいなって」 「杏菜の誕生日だから。改めて沢山、杏菜を味わいたいなって思って。それだけだよ?」 そうやって笑う零斗の顔がどこか寂しそうで、杏菜は何か引っかかった。 「ねぇ、杏菜はさ、結婚願望とかある?」 「何、急に?どうしたの?」 「いいから答えてよ」 急に投げかけられた質問に、やっぱり今日の零斗は様子が変だと感じる。何か悩みでも抱えてるのだろうか。それとも自分との別れたいとでも思っているのだろうか。考えれば考える程、零斗の質問に答えられなくなる。 「そんなに難しい質問かな?」 「・・・そういうわけじゃないけど」 「じゃあ、教えてよ。結婚願望ある?」 「うん・・・まぁ。いつかはしたいとは思うけど・・・」 「それはさ、俺じゃない人とってことだよね?」 「・・・うん、まぁ・・・このまま行くと、そう・・・なるよね?だって零斗には奥さんいるし・・・」 「そうだよね、まぁ、それが普通だよね」 零斗は何か納得したように呟いた。そんな様子に杏菜は不安になる。 自分は回答を間違えてしまったのではないか。 でもあの場合、なんと言えば正しかったのだろうか。結婚している零斗にあなたと結婚したいなんてこと、言えるはずもない。だからといって、結婚する気はない、ずっとあなたとこの関係を続けたいというのも重すぎる気がした。 「じゃあ、寝よう。無理させてごめんね」 「ううん、大丈夫。明日休みだから」 「そっか。じゃ、おやすみ」 しかし髪を愛おしそうに撫でて、おやすみのキスをしてくる零斗はすっかりいつもの調子に戻っていた。 自分の取り越し苦労だったのかも知れないと思いながら、杏菜は深い眠りについた。 昨夜クタクタになるまで抱かれたせいか、杏菜は朝になってもなかなか体を起こすことが出来なかった。睡魔との間で気持ちよくユラユラしていると、遠くの方で零斗の声が聴こえる。 「杏菜、朝だよ。起きて」 「・・・んっ」 起きなければと思いながらも、なかなか目を開けられない。 すると思いがけない衝撃が杏菜を襲った。 「・・・っん、うっ、くっくるし・・・」 驚いて杏菜が瞳を開けると、そこには自分の首を絞める零斗の姿があった。何が起こっているのか整理できずに、潤んだ瞳で零斗を見つめると、 「・・・やっと起きた」 と、零斗はあっという間に手の力を緩めた。その寂しそうな冷たい表情に、杏菜は寒気がした。 「ゴホゴホッ」 「あー、ちょっとやりすぎちゃったかな、ごめんね?でも杏菜が悪いんだよ、なかなか起きないから」 冗談のつもりだったのか、零斗はいつもの調子で笑ってみせる。 しかし一瞬だがあの表情は、本気で杏菜を殺そうとしているようにも見えた。 杏菜は何も言えずに、そのままベッドの上で呆然とする。
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