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「ごめん、ごめん、ふざけすぎたね。怒った?」
「怒っては・・・ないけど」
何も言わない杏菜に焦ったのか、零斗は慌てて後ろから抱き締めてくる。
「俺、仕事でもう出ないと行けないからさ。寝たままの杏菜を残してくの嫌だったんだよ。ちゃんと見送って欲しくて」
「・・・うん」
「チェックアウトは11時だから、それまではゆっくりしてて良いからね」
「ありがとう」
「まだ怒ってる?」
「怒ってないって。ちょっとびっくりしただけ。私もごめんね、なかなか起きれなくて」
杏菜は自分より10歳も年上の零斗を、たまに子供っぽい人だと思うことがある。大人っぽくリードしてくるばかりでなく、子供のように独占欲剥き出しで甘えてくる所が可愛いと思うし、なかなか離れられない要因でもある。
首を絞めたのもきっと、その子供っぽい独占欲がそうさせたのだろうと、杏菜は思った。
自分しか知らない、零斗の素顔。
それが垣間見えた時、杏菜はとてつもない高揚感と優越感に浸れる。
「じゃあ、俺、もう行くからね」
「日曜日なのに大変だね」
「でも、杏菜に沢山パワーもらったから大丈夫」
零斗は名残り惜しそうに、最後に甘い甘いキスをする。
カチャ。
そして甘いキスから顔を離すと、金属が小さく擦れる音と共に、杏菜の首に微かな重みが降ってきた。
「え?これって・・・」
顔を下に向けて自分の首元を見ると、キラキラとダイヤのネックレスが光っていた。
「ん?首輪だよ?」
「これって、ダイヤモンドだよね?こんな高価なもの、貰えないよ!それでなくてもこんなに良くしてもらったのに」
「これは俺へのプレゼントだから」
「え?」
「杏菜は俺のものだってどうしても印しておきたいの。だから首輪。俺のただのワガママだから」
「そんな・・・ずるいよ、そんな言い方。だって私、零斗に何もしてあげられてない」
「じゃあ、毎日それ付けて。それで俺は充分だから」
「・・・でも」
「でもじゃないでしょ?はい、でしょ?」
「はい、ありがとうございます。大切にするね」
「よろしい。じゃあ、行ってくるね!」
零斗は杏菜の頬に軽くキスをして、部屋のドアを開けようとした。しかし杏菜はそんな零斗の後ろ姿を見て何だか嫌な予感がして、思わずシャツの裾を引っ張った。
「ん?どうしたの?」
「今度は・・・今度はいつ会えるの?」
「珍しいね、杏菜がそんなこと言うの」
「なんか・・・零斗が遠くに行っちゃう気がして」
そんな杏菜の一言に、零斗の表情は一瞬強ばったように見えた。
やっぱり彼は何か隠している。
杏菜はそう確信した。
「大丈夫だよ。俺はちゃんといつでも杏菜の傍にいるから」
「本当に?」
「うん、また連絡するから」
しかしそれ以上何を言って良いのか分からず、言葉を探している間に零斗は部屋を出ていってしまった。
てっきり別れを告げられるのかと思った。
もう最後だから、思いっきり甘やかされたのかと思った。
しかし零斗は別れを告げることはせずに、最後はいつものように「また連絡する」と、部屋を出て行った。
考えすぎなのかも知れないなと、杏菜は広すぎる部屋の天井を見つめながら、溜息をついた。
そしてもう一度ベッドに入って、チェックアウトの時間まで眠りに着いたのだった。
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