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「どうしたの?何か探してるの?」
そんな時だった。歩道の植え込みを掻き分けてトルテを探す保に、1人の男性が声を掛けてきた。
「猫・・・」
知らない人とは話してはいけないと母親に言われていた保は、呟いた後にはっとする。
「あ、すみません、何でもないです!」
そう言って急いで立ち去ろうとしたが、
「猫?猫探してるの?」
保の呟きはどうやら彼の耳に届いてしまったらしく、質問が返ってきてしまった。
「はい・・・見ませんでしたか?茶色の小さい子猫なんですけど・・・」
母親の言いつけも大事だが、何かを探している時は聞き込みも大切だって漫画で読んだこともあった。保は、試しにトルテを見なかったか聞いてみる。
「さぁ、猫は見てないなぁ・・・良かったら俺も一緒に探すよ!どんな猫なの?写真とかある?」
「でも・・・」
「大丈夫、俺、あてのない旅行中だからめちゃくちゃ時間あるんだ。君の手伝いさせてくれない?それも思い出になるから」
そう言って男性は、少し低い位置にある保の顔を覗き込んだ。その表情が妙に優しくて、見た瞬間に泣き出しそうになる。
「あの・・・じゃあ、少しだけ・・・手伝って貰えませんか?本当は1人じゃ、見つかるか不安で・・・」
「了解!じゃあ探そ!俺は佐古零斗!君は?」
「掛川保です」
猫を探す保に優しく声をかけた、それが零斗との出会いだった。
「保くんね、よろしく!じゃあ、まず猫を見失った所からもう1回探してみようか」
不安そうな顔をする保の頭を、零斗は優しくポンポンと撫でた。その手が温かくて、保は不安と心細さが和らいだのを昨日のことのように覚えている。
「なるほど、ここから出ていったのか。子猫なんだよね、そう遠くはいってないんじゃないかな?」
零斗は名探偵のように、色々推理しながら辺りを探す。保も零斗の話を聞きながら、必死に探した。
零斗は道行く人にも、猫を見なかったかと丁寧に聞いてくれた。
自分には何も関係のない猫なはずなのに、どうしてこんなに必死に探してくれるんだろうと、保は不思議で仕方なかった。
「もう大丈夫です、あとは1人で探すので・・・」
1時間程経った所で、さすがに申し訳なくなってきた。少し雪もチラついてきて、気温もぐっと下がってきている。保は北海道生まれで慣れているが、旅行者には厳しいだろうと子どもなりに気を遣ったつもりだった。
「何言ってるの?こんなに暗くなってきてるのに、保くん1人にできるわけないでしょ?」
「でも・・・これ以上は悪いし・・・」
「そうだ、お母さんにちゃんと連絡しな?遅くなるって。携帯貸そうか?」
「いえ、携帯持ってるんで、大丈夫です。お母さんにはメールしてあります」
「そっか。さすが現代っ子だなぁ。うちの娘もそんな風になるのかなぁ」
零斗は降り積もる雪を見ながら、少し悲しそうな顔をした。娘に対する愛情というよりは、罪悪感があるような、そんな表情だった。
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