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それから2人はトルテを探しながら、色々な話をした。
保がトルテを友達から貰った話。
母親と自分がトルテを守ると約束したこと。
トルテの名前の由来。
「この子を貰った時、たまたまお父さんがお土産にザッハトルテを買ってきてくれたんだ」
「それで、トルテに?」
「うん、名前迷ってて。ザッハトルテだと長いし、ザッハは可愛くないし、トルテが可愛いでしょ?」
「確かに。良い名前だね」
ザッハトルテと聞いて、零斗はふと杏菜の顔を思い出した。ザッハトルテを食べて柔らかく笑う杏菜。零斗はそんな彼女の笑顔が大好きだった。
「俺の恋人もね、ザッハトルテ大好きなんだよ」
「恋人?佐古さん娘さん居るんでしょ?奥さん・・・じゃなくて?」
「ああ、そうだね・・・奥さんもいるけど、別にとても大切にしてる恋人もいるんだ。世の中的にはこーゆの良くないんだろうけど」
「ふりん・・・ってやつ?」
「そんな言葉、知ってるの?良くないなぁ」
参ったなぁと笑う零斗は、やっぱり少し悲しそうな目をしていた。保は子どもながらに、この人は色々あったんだろうなと悟る。
それから零斗は、杏菜のこと。
妻と娘のこと。
ここに来た理由など教えてくれた。
「子ども相手に俺、何話してるんだろうな。保くんは俺みたいな大人になっちゃダメだよ」
そう苦笑いする零斗の目は、さらに悲しく見えて。何か言ってあげたかったが、子どもの保には良い言葉が思い付かない。自分が子どもであることを、こんなに歯がゆく思ったことは無かった。
「あんなさんには・・・もう会わないんですか?」
「うん、そのつもり」
「それで良いんですか?あんなさんの故郷に1人で来ちゃうぐらいすきなのに・・・」
「痛いとこつくなぁ。たださ、見てみたくなったんだよ。大好きな彼女を作った場所がどんな所なのか。それを見て、良い思い出にして、全部終わりにするつもりなんだ」
確かに不倫という障害はあるのも、お互い好きなのに離れるという選択が子どもの保には理解出来なかった。
好きならば一緒にいれば良いのに。何故零斗は離れるなどと言うのだろうか。
保が不思議そうな顔をしていると、それを感じた零斗はこう続ける。
「俺さ、杏菜といると、杏菜の全てを奪ってしまいたくなるんだ。好きだから全部欲しい。怖い事言うけど、彼女を殺してしまいたくなるんだ。杏菜を殺して、俺も死んだら、2人だけの世界に行けるかなとか思っちゃうんだ、最低だろ?」
「・・・・・・・・・」
「ごめん、ごめん。何て言って良いかわからないよな。まぁ、つまり杏菜といたら、いずれ彼女を殺しかねないんだよ、俺は」
「それは、あんなさんを好き過ぎるから?」
「そう、だから離れるんだ。杏菜を殺さないうちにね」
保が言葉に詰まって、黙って地面を見つめていると、
「本当に俺、子どもに何言ってるんだろうな?ごめん、今の話は全部、忘れて」
と、零斗は明るい声で言った。
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