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「ほら、良い子だ。寒かっただろ?」
零斗は優しくトルテに手を伸ばすと、そのまま抱き上げた。小さなトルテの体は酷く震えていて、あと少し発見が遅かったらと思うとゾッとする。
「保くん、手、貸して。とりあえずトルテをお願い」
「はい!」
保は零斗の方へ駆け寄ると、受け取ろうと精一杯腕を柵の上に伸ばす。その腕にトルテを届けるため零斗も手を伸ばした。
「トルテ・・・」
そうやって保がようやくトルテを受け取った時だった。
「ニャー!」
トルテが勢い良く鳴いて、足をバタバタさせた。
「うわっ!」
それは本当に一瞬だった。
何とかトルテを自分の胸に抱えた保の前に、いるはずの零斗の姿が無くなっていた。
何が起こったのか理解できない保は、トルテを抱いたまま立ち尽くす。
ドン、ドサっ。
数秒後、ビルの下から鈍い音が聞こえた。
「佐古さん!!」
転落防止柵の穴から、必死に下をのぞく。
するとそこには仰向けに倒れている零斗と、辺りに広がる赤い血の海が見えた。
「佐古さぁぁん!!」
保は泣きながら、急いで来た道を引き返す。もう無我夢中だった。ようやく1階まで降りると、ぐったりとした零斗が見えた。
「佐古さん!佐古さん!」
必死に名前を呼びながら近付く。よく見ると微かながら、まだ息があった。
「待ってて、今、救急車!」
「・・・呼ばなくて、いい。これは、罰だから」
「でも!」
「悪い事した罰だ・・・君は・・・ここから、逃げて・・・全部忘れて」
「でも!!」
「あんな・・・あんなにだけ・・・本当のことを言って」
「わかりました!あんなさんには伝えます!・・・必ず、伝えます!」
「ありがとう。逃げて、早く・・・」
零斗はそれだけ言うと、声が聞こえなくなった。そして零斗の唇が最後に微かに動く。
『あんなあいしてる・・・』
その最後の言葉を、保はしっかりと見届けたのだった。
それから保は零斗の言う通り、全力で走って逃げた。しかし途中で気になって、引き返した。
「あそこに、人が!人が倒れてるんです!」
「え?!あ、本当だ!!救急車!」
どうしようか迷った挙句、近くを通りかかった大人に零斗が倒れていることを伝えた。そしてその人が救急車を呼んでいる隙に、保は家に帰った。
保の胸にはしっかりと、トルテが抱かれていた。
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