まさか

3/6
前へ
/6ページ
次へ
そう、そうである。 恋愛漫画や小説でよくある、校舎裏で告白。 使い古された芸当でありながら、なおも廃れることのない王道ともいうべきもの。 見透かされていた。 その事実に、私は赤面してしまう。 「あの・・・はい。そういうことです。」 「そうだよね。大丈夫だよ、僕は君の気持ちを正面から受け止めるから。」 「ありがとう、ございます」 先ほどの畏まらないで、という言葉を受け、言葉がつまってしまう。 「あの、その、す、す・・・」 ここから先の言葉が出てこない。 いざ面と向かって言うとなると、こんなに恥ずかしいものなのか。 たった二文字に、自分の気持ちをのせるだけなのに、こんなにも難しいなんて。 だというのに、彼はただ、私の言葉が紡がれるのをひたすら待ってくれている。 何も言わずに、ただ、待ってくれている。 優しくも、笑わずに、ただひたすら。 「・・・・・すみません、一度深呼吸をしてもいいでしょうか」 「大丈夫だよ。いくらでも待つから」 「ありがとうございます」 緊張を解くには、一度空気を全部吐いてから、鼻から空気をすうとよいと、どこかで見た気がする。 二回、三回と繰り返す。 次第に、上がった肩が下がった気がする。 先ほどよりはマシ程度であるが、それなりに落ち着けた。 その間も彼はただ待ってくれていた。 あぁ、あなたの優しさはどこまでも深いらしい。 私は彼に向き直る。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加