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 妙子と暮し始めて、二人はすぐに男女の関係になった。理由など要らない、妙子が求め私も求めたのだ。二人の関係は同棲へと変化していた。ただ一つ私が気がかりだったのは、妙子と話していた男の存在であった。  私が妙子と同棲をはじめて一月ほど経った頃、彼女は私の前から突然姿を消した。  その日、最近定時で帰ることが多いと同僚から冷やかされて、慣れない愛想笑を残し職場を後にした私は、いつものようにスーパーで二人分の買い物を済ませて帰宅した。すると、妙子は作りかけの料理を残したままに、忽然と姿を消していたのだ。  一ヶ月前までは日常だった、静寂に迎えられる冷気が私の背中にゾクリとした悪寒を走らせた。  無くなった物は妙子のバッグと靴だけだ。あれほど外出を嫌がっていた彼女が、私にメモ一つ残さず出掛けるのは不自然だった。  私はひとり、部屋でまんじりともせず彼女の帰宅を待ち続けるしかなかった。  私には彼女が出てゆく理由が見当たらない。どこか心当たりを探そうにも、私は彼女のことを名前以外何も知らないのだ。    翌日、会社を休んで彼女の部屋を訪ねてみた。彼女の部屋は十階から上の、独身者向けワンルームにある。  管理人が清掃に訪れる時間帯を見計らい、事情を説明して半ば強引に管理人立会いの下に、チラシが溢れる郵便受けと、彼女の部屋を確かめさせてもらった。彼女は私と生活をはじめて以降、部屋に戻った形跡はないようだった。
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