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 警察署の取調室は四階にあった。この高さなら、窓から飛び下りれば只では済まないだろう。しかし、かといって即死できるとも限らない。それを見越して部屋は選ばれているのではないか。そんな妄想に取り憑かれながら、狭い取調室の椅子に座り、担当者が来るのをじっと待った。  窓の外には蜘蛛が巣を張り、運命に抗う哀れな蝶が一頭捕えられているのが見えた。窓から手を伸ばせば助けられる距離ではあるが、駄目なのだ。一度網に掛かった蝶は、糸に滴る粘液が羽に絡まり、二度と大空へ飛び立つことはできない。人間の優しさなど蝶にとっては何の役にも立たない。蜘蛛の食事を奪う意味しかないのである。  暫くして訪れた、私の担当刑事は冴えない中年男だった。私に目を合わせようともせず、書類を眺め続ける刑事に私は単刀直入に尋ねた。
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