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Ⅱ
両親が居ない。その言葉は、私にも思うところがあった。私も早くに両親を亡くしていたからだ。父方には親戚が居るには居るが、父は母と駆け落ち同然で結婚して以来、勘当されていたのだ。父も親戚とは疎遠になることを望んでいた。それ故、私は親戚との付き合いを、今まで一切したことがなかった。
「一晩だけでもいいんです! お願いします」
「……」
見ず知らずの人物を家に入れるのは正直、躊躇われるものだ。女性とはいえ知らない人間を夜、自宅に迎え入れるとなると、何か煩わしい事にでもならなければよいがと思う。しかし、怯える女性を深夜、無下に家から追い出すのもまた、リスクを伴うのではないだろうか。私は最善の判断を模索し思いを巡らせた。
「では、一晩だけ。明日には出て行ってくれるなら」
「もちろん努力します! あぁ良かった。貴方のように優しい方に声を掛けて、あたしは幸運でした」
彼女は同じマンションの独身者向け賃貸物件に住まう大西妙子と言う名の女子大学生だという。見た目が派手なのは、夜の街でアルバイトをしているからだと言った。
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