第2話 ちなみに日課は通学路のパトロールでした。

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 フィオーレと無事仲直りできた後、部屋に様子を見にきた執事長に俺はこっぴどく怒られた。  無理な木登りをした上に、折れた枝ごと池ぽちゃしたのだ。池があったから助かったものの、地面に落ちていたら怪我では済まなかったかもしれない。   「全く肝が冷えましたよ。これに懲りたら、もう二度と危ないことはしないでください」  そうとう心配をかけてしまったようで、執事長はなんども同じお説教を繰り返した。  ちなみにお約束通り、執事長の名前はセバスチャンだ。 「心配させてごめんなさい、セバスチャン。助けてくれてありがとう」 「お嬢様を助けたのは私ではありません」 「へ?」  この老いぼれにそんな真似できるもんですか。と、セバスチャンは以前から痛めている腰をさすった。  セバスチャンでないとすると、いったい誰が俺を池から救い出してくれたのだろう。  この屋敷の使用人は女性が多く、男手と言ったらセバスチャンと料理長くらいしかいないはずだ。池は結構な深さだから、カナヅチの料理長が入れるはずがない。  まさか、メイドの誰かが助けてくれたのだろうか?もしそうなら申し訳ないにも程がある。 「お嬢様を助けてくださったのは、ノヴァスコシア・ブルトゥス・オットーフォアデムゲンチェンフェルデ侯爵です」 「なんて?」  ノヴァ……なんて?? 「ですから、ノヴァスコシア・ブルトゥス・オットーフォアデムゲンチェンフェルデ侯爵。お嬢様の許婚です」  よし、今度はブルトゥスまでは聞き取れたぞ!  でもその後の話は出来れば聞かなかったことにしたいぞ!! 「やっぱりあの方がお姉様のフィアンセだったのね!どこからともなく颯爽と現れて、池からお姉様を救い出して下さったの。帽子も拾って下さったのよ」  まるで王子様みたいだったわ……と、夢見るような表情で語るフィオーレに、俺の現実逃避はあっさりと阻止された。  許婚?フィアンセ?  そんな寿限無(じゅげむ)みたいな名前の婚約者がいるなんて聞いてないぞ!? 「その、ノヴァスコ……ブルトゥス侯爵は今どちらに?」  せっかく聞き取れたのにその後の衝撃発言のせいでまた名前を失念してしまった。  30超えたあたりから、自己紹介された直後に相手の名前を忘れるようになっちゃったのよね、歳かな? 「先程までお嬢様のお側についていて下さいましたが、今日はもうお帰りになられました。本当は、本日正式な顔合わせを行うご予定だったのですが……」  まったく、このお転婆お嬢様には困ったものです。  今のセバスチャンの表情にアテレコするとしたら、こんな感じだろう。  今更そんなこと言われても、知らなかったんだからしょうがないじゃあないか。 「とにかく、後日改めてお会いする日取りを調整いたしますので。今度こそおしとやかに、お上品にすること。間違っても木登りなんて危険な真似は……」  その後もセバスチャンのお説教はくどくどと続いたが、俺は正直半分も聞いていなかった。 ヴィオレッタこと井上菫路、36+10歳にして精神的BLルートの危機に直面しています。
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