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ふたつめ
涼太は窓の外を見ていた。
体育の準備なのか、両脇に2本ずつハードルを抱えて歩くゆかを見つけた。
(相変わらずだ・・・)面白くて少し笑顔になる。
「涼、何見てるんだ?」
友人の佳祐が声をかけてきた。
「いや、ちょっと楽しくて・・・」
「あれ?みくだ」
ゆかの後ろをついていく女子を見てぼそりとつぶやく。
「あ、ほんとだ。同じ組なんだ」
実はこの3人、同じ中学の出身。佳祐はみくの彼氏なので、涼太もよく知っている様子。
校舎の方を見てみくは立ち止まり手を振り始めた。
「あ、けいくんだ。けいくーん!」
(もお、かわいいなぁみくは)
佳祐もみくにぶっきらぼうではあるが手を振り返している。
その横でにっこりしながらもう一人手を振る涼太がいる。
(あ・・・高橋くんか・・・)
みくが手を振るのをやめてもまだひらひらと小さく手を振っている。
あたりをみわたすとそこにはゆかとみくしかいない。
(あれ?もしかしてあたしに手、振ってる?)
ゆかはおどけて自分を指すしぐさを見せると、涼太はうなずいてまた手をひらひらさせる。
「先輩、お仕事盛が出ますね」
「そうでしょ?高橋君みたいな華奢な男子くらいいざとなったら助けられるよ」
「ははは!じゃ、いざというときはお願いしちゃおっかな」
「ゆか~、みく~。はじまっちゃうよー」
「はぁい!。じゃ、また放課後よろしく」
笑顔でその場を立ち去る
「ゆか、それこっちじゃないよ」
「えー!!」
授業準備に戻ったゆかの様子を見て涼太はクスリと笑う。
「お前楽しそうだな」
「花野先輩ってほんと面白いなぁ」
「惚れたか?」
「ははは、さあな」
その日の放課後。実行委員会準備。
ゆかは窓際でもくもくと書類の整理をする。
さわやかな日差しと心地よい風に誘われて窓の外を眺める。
ふと心に浮かんだ言葉を紙に書き込み、また作業に戻る。
そのうち、心地よい日差しが眠気を誘った。
少し遅れて涼太が現れた。
(なんだ?花野先輩、寝てんの?)
「あーあ、書類、風でとばされちゃってるじゃん」
落ちた書類を集めていると、ふと一枚の紙に気付いた。
『道化師 -ピエロ-』
みんなが楽しければ、あたしも楽しい
みんなが幸せならば、あたしも幸せ
だから、あたしはいつも元気に踊る
ピエロのように
だけど、ホントの心は叫んでる
-たったひとつの幸せがいつか掴めたら-と・・・
でも、何かが邪魔をして心の引き出しにしまい込むだけ
だから、あたしはまたいつものように踊る
みんなの幸せ願って
それがあたしの仕事なんだと・・・
(これ・・・花野先輩が書いたのかな?)
「ん・・・あっと、寝ちゃった」
目を覚ましたゆかは周りをみてびっくり。
「わー!書類飛んじゃってるよ・・・ん?」
何かを見ている涼太を発見。しばらくして、見つめている紙に気付いてハッとする。
「きゃー!み、見たの??」
すかさず紙を奪い取る。
「はい」
「どこまで??」
「全部・・・」
そこまで言われて顔が熱くなる。
「と、とにかく忘れて。ね?」
「なんで、いい詩なのに」
「が、ガラじゃないし」
「そんなの関係ないでしょ?『みんなが楽しければ・・・』」
「きゃー!!やめて!!おぼえないで!」
「そんなことより先輩。書類、集めなくていいんですか?」
「わー!そうだった」
あわてて書類を集め始めると、ほかの人たちが集まってきた。
集め終えた書類を涼太はゆかに渡しながら耳元に顔を寄せる。そして小声で
「今度、新作見せてくださいね。ゆか先輩♪」
「XXXXX!!」
赤くなった頬を必死に抑えて、その日の委員会はなんとか終了した。
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