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みっつめ
文化祭準備も佳境に入り、クラスの仕事もさることながら、実行委員でも会場のタイムスケジュールを考えたり、プログラムを作ったり、看板を作ったりと毎日あわただしく過ぎていく。
「先輩、まだ帰らないんですか?」
「うーん、もうちょっとやらなきゃならないこあるから」
「じゃ、お先に失礼しまぁす」
「はい。また明日ー!」
ゆかはひとり、作業を続けていた。そこへ涼太と数名の友達が通りかかった。
「あれ?ゆか先輩。まだ残るんですか?」
「うん、ちょっと細かい作業が残ってて。大丈夫すぐ終わるから」
しばらく何かを考えた涼太は、ゆかに近づいてくる。
「手伝いますよ」
「いいよー。大丈夫だよ」
「おおーい。涼太ぁ。帰らないのか?」
「ああ。もうちょっと残っていくよ。じゃあな」
涼太は友達に向かって手を振った。
「大丈夫だよ。あと少しだし。お友達に悪いよ」
「いいの。俺がやりたいだけなんだから。それに、二人の方が早くおわるでしょ?」
「う・・・うん・・・」
ゆかは少し戸惑った。今までこんな風に優しく言葉をかけてもらったことなどなかったから。
「でも、先輩ってほんと一生懸命ですよね」
「だって、みんなの笑顔の手伝いができるって思うとうれしいし、楽しいし。だからつい頑張っちゃうんだよね」
そんなゆかの横顔を涼太は優しい瞳で見つめる。
ふと顔をあげたゆかと目が合う。
ドキッ
ゆかは胸の高鳴りを感じて目をそらせる。
「おーい。そろそろ終わりにしろよ」
先生に声をかけられてハッとする。
「はい!すいません、帰ります。続きは明日にしよ、高橋君」
「りょうた!」
「はい??」
「名前!涼太ですよ。ゆか先輩」
「え?えーっと・・・りょ、りょうた君?」
恥ずかしさをこらえて名前で呼んでみた。
「はい。そうしますか。ゆか先輩」
にっこり無邪気に微笑まれて、ますます鼓動が高鳴っていくのを感じずにはいられなかった。
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