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童子は椀をオレに返すと、「ご馳走になった。」と頭を下げた。
「ワレを喰わないのなら、お礼が出来ないから、もう少しここにいるぞ。」
「ああ?」オレは呆れた。
「小僧。お前頭どうかしているだろう?
オレは鬼だぞ?鬼と一緒にいたいなんて、オレが怖くないのか?」
童子はにこにこと笑った。
「ワレは鬼がどんなものか知らなかった。
オヌシが自分を鬼というなら、ワレは鬼が好きだ。」
「あああっ??」
オレは口をぱくぱくと動かしたが、言葉が出て来なかった。
童子はそんなオレをにこにこと見つめている。
オレはカニ汁を口にかき込んだ。
腹の奥底にお日さまのようなあったかさが沁み渡る。
それがいつの間にか胸の奥にまで広がり、それはいつまでも消えなかった。
夜になると童子が、ごろんと床に寝ているオレのそばに来て横になった。
童子がいるだけで、隙間だらけのあばら家の中でも、少しぬくまって感じる。
気がつくと童子がじっとオレの顔を覗き込んでいた。
「オヌシの目は花のような色だのう。
昔ワレがいた所に、いっぱい咲いていたのと同じ花の色じゃ。」
「優しい色じゃのう・・。」
そしてすうすうと寝息を立てて寝入ってしまった。
オレはこの家で一番暖かい毛皮を奥から引っ張り出すと、そっと童子にかけた。
熾き火がぱちんとはぜるまで、
オレはその童子の無防備な紅潮した頬を眺めていた。
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