第1話 小百合

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 我が家は代々続く名士の家で、曾祖父の代に始めた和菓子屋は、祖父が確固たる地位を確立し、父が全国規模へと発展させ、兄が海外進出まで果たした。  今やうちでお菓子を買うのがステータスになるほど大きくなった会社だ。  本店は老舗の味をそのまま職人が引き継ぎ多数の支店は時代の流れ、地域性、国民性を汲み取った商品開発で売れ行き好調。  つまり、我が家は代々やり手なのだ。  私には10歳上の姉がいて、職人と結婚して本店を継いでいる。8歳上の兄は本社を父と共に継いでいる。  私は……。  姉が生まれ、兄が生まれ、その後に私が出来たことは、家族にとって恐らく予定外だったのだろう。  本店を継ぐ姉と本社を継ぐ兄のあとに、“私はいらなかった”と思う。もう後継者はいるのだから。良くも悪くも、力が抜けていたのだろう。3人目の私は、男でも女でもとにかく元気に生まれればそれでいいと思われていた。  しかし、いざ生まれてみれば、姉や兄とは年が離れていたせいで、それはもう親戚中から猫可愛がりされて、私は大きくなった。
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