第1話 小百合

9/12
前へ
/213ページ
次へ
 触ったらダメだって言われたのだから、触らなければ良かったのに。子供心に、そう思った。  プリンセス絵本を読んでも、私はなぜか、“プリンセス”になりたいと思ったことはなかった。  お姫様のまわりの人はどう思っていたのかな、そんなことばかりを考えた。シンデレラは、苦労した時があったからこそ報われたのだろうか。  優しさに囲まれて、言いつけも守らずに、まわりの人を巻き込んで、目が覚めたら、目の前に理想の王子様がいる。そんな眠り姫に、私は腹立ちさえ覚える。  幸せってなんだろう。  こんなひねくれた私に、王子様なんて来てくれるはずはない。来てくれたとしても、まわりが見えなくなるくらい夢中になれるのだろうか。突然キスされるよりも、私は、普通の出会いがいい。  例えば、クラスメイトとか。習い事が一緒だったとか。たまたま、毎日同じ電車で通学していたとか。同じクラブ、同じサークル。大人になれば、社内恋愛とか。  少しづつ育んで、大したバックボーンなんて知らなくて、それでもその人に 自然に恋をする。  そんな恋がしたい。そんな、普通の恋がしてみたかった。  だから、普通のOLにも……憧れていたのだ。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1923人が本棚に入れています
本棚に追加