第1話 小百合

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 子供心に感じていた。  私が“欲しい”と言えば何でもと。祖父母、父母、それから……姉と兄さえも。  幼稚園の頃、姉の持っていたイヤリングが欲しくて「欲しい」ってごねた。それは、姉のお気に入りで絶対にくれないだろうと思っていた。  姉はいとも簡単に「いいよ」って言った。私はそれを見る度に、姉から奪ったような罪悪感にさいなまれた。  兄の大事にしていたプラモデルを壊した時も、兄は「いいよ」って言った。本当はものすごい落ち込んでたのを私は知っている。  父も母も私が欲しいって言ったら何でも買ってくれただろう。祖父母はもっと顕著だ。  いつしか、私は“欲しい”と言えなくなった。きっと、何でもくれるんだろうなって遠慮してしまう様になった。怖いくらいにみんなが私の為に動いてくれることを申し訳ないような気持ちになったからだ。  私は何でも与えてもらったけれど、することに対しては、制限をかけられた。  子供の頃はそんなものなのだろうか。末っ子だからか、いつまでも幼い子供のままだと、そう思われていたのだろうか。
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