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「そういう事情を聞いたら、諦めるしかないでしょう」
事務所のソファー、銘菓を頬張りながら野村は言った。
「チッチが幸せに暮らせればいいんです」腹に落ちた菓子のクズを払い、野村は颯爽と立ち上がる。「じゃあ、僕はこの辺で。おかげ様で良く寝れるようにもなったし、出店の食べ歩きでもしてきますよ」
出口に向かう同線上、野村はマントルピースの前で立ち止まり、立てかけてあった写真に顔を近づけた。
「はあ、美人さん。本当に片桐さんの彼女じゃないんですか?」
それは高校の卒業式の時に撮った、記念写真だった。そこには野球部の仲間と当時、マネージャーをしていたオカッパ頭の茜が居た。
「僕がイケメンなら、紹介してくださいって言うんだろうな」
「無理な話ですね」と、片桐は笑う。
賑やかなお囃子、同じ方向に進む人波はまるでカラフルな回遊魚のようでもあった。
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