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帰り道、事務所のそばを通った時、灯りが点いているのが見えた。
片桐と茜は事務所に上がり、点けてあった電気を消した。ふっと真っ暗闇になった室内に、提灯の灯りが薄ぼんやりと反射した。
片桐は窓の外を見ながら、「もう成仏したらどうだ?」
茜は一瞬黙り、「でもさ、びっくりしたよね。まさか、真央ちゃんにも幽霊が見えるなんて。私、驚いちゃって――」
「俺に憑りつくのは止めろ。迷惑なんだよ」
「ごめん」
「早く生まれ変わっちまえよ」
茜は沈黙した。浴衣を着た人波を言葉もなく見つめている。
「私、ピーちゃんの気持ちが分かるの」と、茜は言った。「どんな姿になってもさ、傍に居たいの。大好きな人の傍に。考えなんてないの。それだけなんだよ」
透き通る茜の横顔。それは十八歳のオカッパ頭のまま。永遠に変わらない、永遠に触れられない横顔。
「人の気持ちも考えろよ」
浴衣を着た年若い恋人たちが商店街を歩いていた。腕を組み、肩を寄せ合いながら仲睦まじく笑い合っている。
「野村さんと話しているの、聞いちゃった」と、茜は言った。「幽霊を簡単に除霊する方法。人が混雑してる所にわざと行って、霊を他人に擦り付けるって」
茜は続けた。「涼ちゃんが引きこもりになったのは十年前からだよね?私の事故があってから。涼ちゃんがさ、海にも祭りにも、人の多い所にも行かなくなったのは、もしかしてさ……」
「勝手に言ってろ」と、片桐は言った。
腐れ縁も縁の一つ。いつか時代が変わり、姿も変わり、再び巡り合う時も来るかもしれない。
けれど。
片桐は百キロを飛んだ、あの小さくも健気な鳥の姿を思い出していた。結局、俺も一緒なのだと、そう思った。
遠くで轟音が鳴った。祭り客が何事かと空を見上げている。
「俺が引きこもりなのは」と、片桐は言った。「ここからでも花火は見れるからだよ」
一瞬の静寂の後、空に満開の花火が上がった。赤や青、銀色に金色。きらきらとした星屑の尾を夜空に瞬かせている。
「わあ、牡丹花火」と、茜は声を上げた。
完
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