探偵は引きこもり

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 片桐は溜息を吐き、マントルピースに腰掛ける松島茜をちらりと見る。彼女もやれやれというように首を振っている。 「片桐さんでも難しいのかあ」  野村はそう言って肩を落とした。彼はおっとりとした性格の持ち主だが、純粋過ぎるが故に思い込みが激しい所もあった。 「じゃあ、こっちの件を依頼してもいいですか?」 野村はそう言い、ポケットから一枚の写真を取り出した。そこには、おてもやんのようなオカメインコが一匹写っていた。 「一年前、ネットで知り合った人から譲渡されて」と、野村は言い、麦茶を一気飲みした。「昨日、たまには日光浴させてやろうと思って。それで、籠をベランダに置いておいたんです。そしたら……」 「脱走した?」 「すぐに近所を探したんですけど見つからなくて。それで片桐さんにお願いしようと思って」 「名前は?」 「チッチです。オスのインコで五歳。うちの近所って、野良猫が多いから心配で」 「ペット探しは得意ですよ」と、片桐は言った。「インコの場合、広範囲に逃げている可能性が高いので、近所にポスターを貼るのが有効です。乾燥した所や風通しの良い場所を好むので、公園や雑木林を探すのも鉄則ですね」 「見つかりそうですか?」 「それは、探してみないと分からないですけど」と、片桐は言った。「取り合えず警察、動物管理センターに連絡して、ポスターやチラシを作りましょう。今は夏ですから、探すのは朝方か夕方ぐらいがいいでしょうね」 「お任せします」野村はそう言い、テーブルから身を乗り出し、片桐の手を握った。「チッチを必ず見つけてやって下さい!」 「出来る限りの事はします」 「良かった」野村はそう言い、安心したように顔を上げる。視線はマントルピース、茜の方向を向いていた。野村は声を潜める。 「可愛い人ですね。片桐さんの彼女ですか?」 「ただの腐れ縁ですよ」  その会話が聞こえていたのか、「私は涼ちゃんの幼馴染ですよ。五歳からの付き合いなんです」 「ああ、幼馴染かあ。いいなあ、幼馴染、羨ましいなあ」
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