探偵は引きこもり

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 話を終え、野村が出口に向かおうと時、片桐はある事を思いだした。 「霊を祓う簡単な方法ならありますよ」と、片桐は言った。「ネットからの受け売りなんですけど。一つは、消臭剤を部屋に撒く。それか、お香を焚く。空気を浄化するって意味で。それか、人が混雑している所に行って、霊を通行人に押し付けちゃう。霊感の強い人がいたら、憑いてるやつはそっちに行っちゃうそうなんです」 「へえ、そんな除霊方法もあるんですねえ」  そう言い、野村は満足したように階段を降りて行った。  マントルピースから下り、茜は伸びをする。 「チッチちゃん、見つかるといいね」 「そうだな」と、片桐は言った。「でも実際、望みは薄いよ。犬猫とは違って鳥は広範囲を逃げるし、猫やカラスも居る。正直、見つかる可能性は低い」 「そうなんだ」茜はそう言い、眉を下げた。 「ポスターを張ったりチラシ配ったり、やれるだけの事はやるけど」 「さすが、優秀な探偵さん」茜はそう言い、窓から顔を出し、祭り客で賑わう商店街を見下ろした。「わあ、人でいっぱい。出店も開いてるね」  揺れる提灯に色とりどりの出店、七夕飾りの吹き流しがさらさらと風に棚引いている。 「ねえ、今年はお祭りに行かない?」茜はそう言い、上目遣いで片桐を見た。「出かけようよ。海とか、花火大会とか。仕事ばかりしてないでさ」 「今の時期なんてどこも人で一杯だろ。人が多いと疲れるし、楽しめない。そもそも仕事があるしな」 「涼ちゃんって、本当に仕事以外では引きこもりだよね」呆れたように茜は言った。「人生は短いのよ。今を目一杯楽しまなきゃ」 「その内な」  片桐も窓から顔を出す。そこには汗だくになった野村が、祭り客の群れに突っ込んでいく姿があった。
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