探偵は引きこもり

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 十時過ぎには、元飼い主が住む一軒家に辿り着いていた。  片桐はインターフォンを押すが、不在にしているのか、家主が出てくる様子はなかった。  時間は正午を過ぎ、午後になった。漸く在宅が確認された時には十六時を回っていた。  インターフォンを押して出てきたのは、八歳ぐらいの少女だった。親の仇のような鋭い目でこちらを睨む少女は、明らかな警戒感を滲ませていた。 「こんにちは、はじめまして」  ドアの隙間から顔を出し、茜はにっこり笑う。 「お姉さんたち、誰よ」少女はそう言い、ナイフのような鋭い目を向けた。「勧誘の人?」 「うわ、びっくりした」茜はそれこそ鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。それから気を取り直し、「いえ、違うの。ちょっと聞きたい事があって」 「前にこの家でオカメインコを飼ってたでしょ?で、一年前に野村って人に預けた。その子がね、一昨日逃げちゃったんだ。だから、こっちに戻ってきてないかと」 「戻ってきてないよ。知らない」 「そうか。じゃあ、インコの名前を教えてくれないかな?」 「ピーちゃん」 「そう。お母さん、お父さんは?」 「夜まで帰って来ない。仕事があるから」 「そうか」片桐はそう言い、探偵事務所の名刺を渡した。「何かあれば連絡して。ご両親にもそう伝えておいてね」 「分かった」 「最後に、お名前教えてもらっていいかな?」 「野口真央」 「そう、真央ちゃんね」  片桐はそう言い、シャツの襟を頼りなさげに掴む真央の指を、玄関の奥に置かれたベビーカーに視線を向けた。
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