探偵は引きこもり

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 「申し訳ないんですが、夏休みもあり、今日はご宿泊頂ける部屋が限られているんです」  眉を下げ、さも申し訳なさそうな顔で受け付けの女性はそう言った。 「開いてる部屋は?」と、片桐は聞く。 「シングル、ダブルは満室でして、今ご案内できるのはツインのお部屋しか……」 「私は大丈夫よ」  カウンターに寄り掛かり、茜は言う。 「分かりました。じゃあ、ツインで」  受付の女性からカードキーを受け取り、三階へ。室内は特徴のないビジネスホテルの個室。十畳ほどのシンプルな空間に、ベッドが二つ並んで置かれていた。  茜は窓側のベッドに腰を掛けながら、「チッチが見つかったら、野村さんに返しちゃうの?それじゃあ真央ちゃんが可哀そうじゃない?」 「そうだな」片桐はそう言い、備え付けのテーブルセットに腰を下ろした。「でも、野村さんの事も考えないと」 「そうだよね。野村さんだって、チッチと一年も暮らしてたんだから」  片桐は知り合いに電話をし、聞きだした情報をノートにメモしていった。 「そういえば涼ちゃん、明日うちの実家に来るの?」 「そのつもりだけど。数子さんにも挨拶したいしね」 「もう一年も経つんだね。毎年思うんだけど、何か不思議な感じ」  夕暮れ、窓の外、車の眩しいヘッドライトが燈篭流しのように眼下を流れていった。
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