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「時任さんってさ……」
「やっぱり素敵よね」
「彼女とかいるのかなぁ?」
「誰とも付き合ってないって話よ?」
「キャーッ!! うっそぉ、あんなイケメンで仕事もできるのにぃ?」
抑えられた、でも十分にかしましいメイド達の声が聞こえた瞬間、私は思わず足を止めていた。
そんな私に気付かない彼女達は一条家のメイドにふさわしい音を立てない静かな足取りで、だけどそれを残念なくらい台無しにするかしましさでキャイキャイ騒ぎながら、曲がり角の向こうをこちらに向かって歩いてくる。
「この間、お嬢様の付き添いでパーティーに出た時、取引先のお嬢様に告白されたって話、本当なのかなぁ?」
「あら? 取引先の社長に引き抜きの話を受けたんじゃなかったの?」
「その取引先の社長に自分の娘との結婚を打診されたんじゃなかったでしたっけぇ?」
彼女達がまだ私の存在に気付いていないことを悟った私は、そっと数歩後ずさると一番近い部屋の扉を開けて中に滑り込んだ。
彼女達の声がちゃんと聞こえるように細く扉を開けたまま、息を潜めて耳を澄ませる。
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