158人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
会長は、イケボ。
高校に入学して、たったの一時間。
私の心は……いや、耳は、ある人物にうばわれてしまっていた。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この学校の生徒会長をつとめています、岸といいます。さて、この学校は、3つの学科に分かれ、それぞれ県内でも随一の―……」
キシ。名前はそう聞こえた。
遠目にしか見えないけれど、スラっとした体型をしている。眼鏡をかけているのもわかる。どんな顔をしているかはハッキリわからないけれど、私にとってはそんなことはどうでもいいんだ。
「……また部活動もさかんであり、全国大会常連の部も多くー……」
マイク越しに体育館中に響く声。
正直、内容なんて頭に入ってこない。なぜなら、
(すっごい、いい声……)
低くて、甘くて。それでいて、耳に残る。私の大好きな声優さんの声より素敵かもしれない。
そう、私・橋本陽菜子は、声フェチの声優オタク。好きな声優が出るアニメは全て録画しているし、抽選に当たればイベントだって行く。特定の推しもいるけど、いい声の人はみんな好きだ。
そんな趣味だからなのか、周りの男子とは普通に話すことはあっても恋愛に結び付いたことはない。特別、「好き」って思えるような男子も中学校にはいなかった。
だけど……
「……年、四月七日。県立泉西高等学校生徒会会長、岸遥真」
会長は深く礼をして、壇上から降りて行った。最後までいい声。もっと、聞いていたかった。
キシ、ハルマ先輩。
私が入学した、泉西高校の生徒会長を務める三年生。
わずか数分のあいさつを聞いただけで、私は会長のファンになってしまったんだ……。
最初のコメントを投稿しよう!