第二章 糸

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 『お前が母親と信じていたモノは、母親じゃない』  ならば最近まで一緒に過していた母は何者だろう? 生み育ててくれた母は! 赤の他人だったというか!  自分の親が継母だったと今更ながらに知らされたようなものだ。  (いや、それどころか事態はもっと深刻じゃないか! オレは自分の母親の人生を食い潰した得体の知れないモノを母と慕っていたのか!)  走馬灯のように、母との思い出が脳裏に繰り返し浮かぶ。  (母のやさしい笑顔――あのひとつ、ひとつがまやかし? それとも妄想?)   ここまで揺れるにはわけがある。   あるのだ! オレの胸に蝶の形をした赤い痣が!   ならばこれは、どういうことか! オレはだれの子供だというのか!   (いっそのこと母の過去など調べるのはよそうか?)   そんな弱音を吐きそうになる。   (もういい、東京へ帰って日常に戻ろう!)   だが、このままでは恐ろしいことが起きるような予感がする。   そうだ、あの目だ!   母が美香を見つめる。あの猛禽のような目。   宮司は言ったじゃないか、  《乗っ取られた娘は、また別の娘を襲って乗っ取ってしまうんです》  オレは疑惑を払い落とすように、首を横に振った。  (まさか! そんなまさか! もう少し納得がいく証拠が欲しい! だってそうだろう! どこの世界に自分の母親が化け物だと認めたい息子がいるもんか!)  腕時計を見れば午後二時、三時に親父が勤めていた女学校時代の同僚と待ち合わせをしている。  なんでも郷土の歴史に詳しく研究をしているらしい。  じつは加倉家にまつわる伝説はもう一つあるという。それを訊きに行くのだ。   それと……。その人は父の過去を知っている。
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