ひきずりさま

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ひきずりさま

 夏という事で、僕の体験した怪談話を一つ、書き(しる)そうと思います。  あれも夏の事でした。  大学を中退してしまった僕はしばらくフリーターをしたのち、テレビ番組の制作会社に就職しました。  大学三年で中退なんて心象悪いに決まってる。きっと就職活動は難航するだろう。覚悟はしていましたがいつまでもバイトだけしている訳にもいかず、手あたり次第エントリーしていきました。    最悪、派遣でも仕方ない。と思っていたところ運よく数社から内定をもらうことが出来ました。時期が良かったのです。ちょうど、新卒で入社した奴らが社会の厳しさに音を上げ、根性見せることもできずに辞めていくタイミング。大学中退の僕が言うのもなんですが、そんな人たちのおかげで空きがあったというわけです。  僕は職種にこだわりは無く、テレビ業界は入れ替わりが激しそうな印象があったのでその会社に決めました。もし仕事がキツくて嫌になっても辞めやすそう――。すぐに会社を辞める新卒をどうこう言いましたが、僕も根性どころかすぐに逃げ出す人種なのです。  仕事は新人AD。雑用ばかりで仕事は楽だ。「気が利かない」と、怒鳴られてばかりでしたが僕はまったく気になりませんでした。  例えばおしぼりがぬるいとか、すでに並べてある弁当を二段じゃなくて三段に並べ直せとか。  どうでもいいことで関係ないやつが怒る。実際楽屋を使う演者さんたちはそれほど気にしていません。それどころか、どんなに怒鳴られながら準備したって全く手を付けない人が多い。これじゃ、真面目なヤツほどやってられないだろうな。  そんな風に体力は使うけど簡単な業務が続き、「向いてるかも」と思い始めたころ、夏の特番の企画が上がりました。お笑い芸人とか次のクールのドラマ出演者とか、旬の芸能人がネットで話題の心霊スポットを訪れるという、よくある番組です。僕は女性プロデューサーの佐伯さんと心霊スポットの下見や諸々の手配……業界っぽくいうとロケハンに行くことになりました。
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