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転げるように降りたところで民宿のおばちゃんに鉢合わせてしまいました。おばちゃんは開口一番、
「昨日、聞こえた? 『引きずり様』が来たね」
肩をすくめ、にやりと楽しそうに笑いました。
このままトンズラするつもりでいましたが、僕だって佐伯さんのこと、どうにもできないから放置するだけで、どうでもいいわけじゃありません。おばちゃんならなんとかしてくれるかもしれない。僕は佐伯さんからのラインをおばちゃんに見せました。
「……あらぁ。せっかく教えてあげたのにね」
おばちゃんはこともなげに笑い飛ばします。
「いえね。『引きずり様』なんて気味が悪いでしょ。だからよそへ行って欲しいからよそ者には話しちゃダメってことになってるのよ。上手くすれば連れてってもらえるかもって。でもあたし、こんな商売してるでしょ。お客さんに悪くてね。つい教えちゃうのよ。『引きずり様』や『引きずり物』を見ちゃうと『引きずり様』に付いて来られてしまうから」
その時、ラインの通知音が鳴りました。佐伯さんです。
『槙くん、すぐに来てくれない? 後ろに誰かいるみたいなの。振り向くと見えないくらいすぐ後ろに張り付いてて。ちょっと見てくれないかな』
僕は嫌な予感しかしなかったので、おばちゃんと一緒にメッセージを読みました。
「あぁー。もう駄目ね。お義母さんの時と同じだわ。あの『引きずり様』、もとは家の姑だったのよ」
おばちゃんは僕に手招きをして、外の古家を指さしました。
「たぶんいつもはあそこに居るのよ。母屋。姑の家だったの。ある時、こっちに電話がかかって来てね。“後ろに誰かいるみたい”って。同じよ。どこで付かれちゃったのかしらね。たまに昨日みたいにこっちにきて歩き回ることがあるからお客さんには初めに言っておくの」
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