ひきずりさま

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 それから佐伯さんがどうなったかわかりません。  僕はそのまま会社を辞め、すぐに家も引っ越しました。おばちゃんがお義母さんから電話が来ていたと言っていたのでもちろん、携帯電話もキャリアごと替えました。  あの時の体験を忘れたことはありません。 『引きずり様』は淋しさのあまり人ごみを好む――。おばあちゃんの話も一字一句覚えています。  僕はすっかり人ごみを避けるようになりました。  僕は今、地方都市の外れに腰を据えのんびり暮らしています。『引きずり様』の存在を知ったことがきっかけで「世の中って実は何でもアリだな」と、おかげで創作にハマり作家になりました。  地方でも仕事ができるので人ごみを避けるにはちょうどいい仕事です。  でも、最近気になることがあります。  時折、町で『御引きずり』を見かけます。  初めて気が付いたのは東京行きの新幹線を待っている時でした。本当はもちろん都会へなんか行きたくありませんが、どうしても仕事で上京しなければならないときがあります。新幹線を待つホームで足に絡まるゴミのようなものがあったのでふと足元を見ました。  古家で見たゴミの塊ようなものではなく、もっと細い髪の毛が絡まったような細さではありましたが、僕にはすぐわかりました。『御引きずり』の一部です。  すぐに顔を上げ、目を逸らしたので『引きずり物』がはっきり見えることは無かった。だけど、こうして誰かがどこかで“コレなんだろう”としげしげと見て確かめる可能性は十分ある。あの海辺の町から出てから十数年、一体どれだけの人が『引きずり様』になったのだろう。  僕はこの話を書き残す必要があると感じました。  次の作品は『ひきずりさま』だ。
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