ひきずりさま

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 東京での仕事を終え、そんなことを考えながら帰路へ着きました。家に近づくにつれ、髪の毛のもつれほどだった『御引きずり』が徐々に太く大きくなっていきます。 (……まずいな)  もう一度、東京行きの新幹線に乗ろう。この町から離れた方がいい。くるりと向きを変えた瞬間目の端に人影が見えました。  後ろに誰かいるみたいです。振り向くと見えないくらいすぐ後ろに張り付いている。  耳元で、かすれた声が言いました。 「槇くん……やっと見つけた」  民宿の部屋を出たところで佐伯さんと鉢合わせた時のことを思い出しました。部屋の中にはぎっしりと『御引きずり』が詰まってたじゃないか。なんで気が付かなかったのだろう。  あの時、佐伯さんはもう……。  僕はとっくに『引きずり様』を見ていたのです。
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