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ふと、家の前に茂る雑草の中に動くものが見えました。目を凝らすとただのゴミです。ごちゃごちゃした何だか分からないものが、見えている部分だけでも二メートルぐらいの長さに渡り、草に紛れています。
この古家でロケをするとしたら、雰囲気づくりに雑草はそのままでいいけど、これは、このゴミは片付けないと。
僕は少し、仕事ができる風の考えをしている自分に酔い、ますますこのロケハンの仕事が楽しいと思いました。
予約の時点で僕らがテレビクルーだと伝えると、民宿のおばちゃんは大歓迎してくれました。ウェルカムドリンクのほうじ茶と木製の菓子鉢に入れられた田舎のおばあちゃんちでよく出るお菓子たちが、年季の入ったちゃぶ台にマッチしていて実に田舎っぽい。
僕がそれをビデオカメラで撮影していると、おばちゃんははしゃいでいます。この町にテレビが来るなんて、初めてだと――。
……あれ? この町、心霊スポットで有名なんじゃなかったっけ? 僕は何気なくおばちゃんに言いました。
「じゃあ、あの廃校放送するの僕らが一番のりですね」
「そりゃそうよ。何かあるんですか? あの学校に。廃校になったって……ちょっと前だよ?」
おばちゃんの言葉に僕らは顔を見合わせた。佐伯さんは眉間にしわを寄せ、ちゃぶ台に身を乗り出し小声で言った。
「すみません。あの廃校、心霊現象が起こるって聞いてきたんですけど……」
「あら、そう? そんなの、起こるの?」
「いえ、だから、そう聞いて来たんです。噂になってるんじゃないんですか?」
「聞かないねぇ。そんな話になってるのかね」
佐伯さんは、参ったな、と頭をかきむしる仕草をしました。
撮影中、心霊現象が起こる起こらないはともかく、噂すらないとなると、町の人へのインタビューをやらせにしなくてはならないのです。
つい最近、バラエティー番組のやらせがメディアに取りざたされたばかりなので、できれば避けたいのでしょう。
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