ひきずりさま

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「この町には『引きずり様』というのがいてね。『御引(おひ)きずり』を引きずりながら街中ウロウロ歩き回るんだよ。『御引きずり』はとても長くてあちこちで見かけるけど『引きずり様』の姿を見たものは少ないんだ。それで、ここからが大事だよ。絶対に『引きずり様』の『御引きずり』を調べたりしてはいけないよ。『御引きずり』はゴミみたいな何だか分からない『()きずり(もの)』が繋がって長~くなったものなのよ。初めて見かけたときはつい、何だろう? って思うけど、何を引きずっているか知ってはいけないの。そして『御引きずり』を辿ってもいけないよ。昔はよく子どもらがどこまで続いてるのかって辿ってしまったらしいけど、それももう私のばあさんが子どもの頃の話だね。今の子はちゃんと分かってるもんで、最近は『引きずり様』なんてみんな気にしないの。あんた達みたいなよそから来た人はちょっと気を付けなきゃだね。とくに人ごみが好きでね。明日町に出たら人の多いところで足元を見てごらん。『御引きずり』あるかもしれないよ」  きっと宿泊客にいつも話しているんだ。”内緒”と言いつつおばちゃんの慣れた話しぶりは講談さながらでした。  僕は話の途中ですぐに分かりました。昼間、古家の前で見た草の間のゴミ。あれは『引きずり様』の『御引きずり』の一部です。不思議なことにそれほど恐怖心は湧きませんでした。  でも、危なかった。もう少しであのゴミ……『引きずり物』を近くで見てしまうところだった。  こんな事を佐伯さんに話したら面倒なことになりそうだ。僕は古家とゴミの事は黙っていることにしました。
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