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いつも一緒だった紅。彼がいなくなったのは一か月前だ。それは僕の目の前が真っ赤に染まった日でもあった。生温かい感触が、僕の頬を伝って落ちた。あの日、大切だった紅星はいなくなってしまったんだ。
「――」
ああ、どうしてあんなことになってしまったのだろう。僕が弱かったせいだ。それは解っている。でも、どうして。その疑問を、この一か月、ベッドの上で幾度となく繰り返している。
「戻って来てよ」
無駄だと解っていても繰り返してしまう、その呟き。解っている。無駄なことだ。彼はもう、この世にはいない。
「嘘だよ」
でも、僕はまだ納得いかないままだ。だって、本当にずっと一緒にいたのに。そんなの、おかしいじゃないか。彼だけがいなくなるなんて、そんなの信じられない。
「調子はどうだ?」
ベッドで丸まっていたら、一か月前に出会った男の人が声を掛けてきた。彼が、僕を病院まで運んだのだ。
「最悪」
「まあ、そうだろうな」
「僕は、一人じゃない」
「――」
僕の呟きに、男の人は困ってしまったようだ。いつもこうやって困らせているから、もう当たり前みたいになっている不思議なやり取りだ。
「森川蒼星。君は一人だ」
「一人じゃないよ」
「森川紅星なんて子は存在しないんだ」
「いたもん」
そう、こんな不思議なやり取り。誰にも、僕たちの両親さえ、紅星を知らないというのだ。ずっと一緒にいたというのに。どうしてだ。
「しまった。先生に頭ごなしに否定しちゃ駄目だって言われていたんだった」
男の人は、独り言のように呟く。そう、先生。彼が僕の世界を、森川紅星を殺した男だ。そして、僕がずっとベッドの上にいなければなくなった理由。
「解離性同一性障害、か。難しいな」
男の人が呟く言葉が、僕の心をぎゅっと締め付ける。
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