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「水無瀬から聞いた。」
力の入らない脚でようやくたどり着いた水樹の部屋で、龍樹は口を開いた。水樹はギクリと肩を震わせる。あの時のことを、水無瀬は一体どのように龍樹に伝えたのか、それがただただ心配だった。
龍樹を傷付けたくない。その想いを、彼は汲み取ってくれただろうか。
ドクドクと高鳴る心臓を抑えて次の言葉を待つ。龍樹は言葉を慎重に選びながら口を開いた。
「…首輪…ちょっと力を込めたら、簡単に外れたって。うなじを、見たら…もう歯止めが効かなかったって言ってたよ。…もう随分、古かったもんな…」
龍樹の表情は、苦痛と諦観と、そして少しの羨望があるように見えた。水無瀬のものになることができた水樹への羨望の眼差しだった。
水樹はまた涙が溢れた。
龍樹を傷付けないという約束を守ってくれたことへの安堵と、嘘をつくことへの罪悪感。今すぐにでも謝って全てを教えたい衝動。それができない葛藤。
嗚咽を漏らしながら大粒の涙をこぼす水樹の背中を、龍樹は優しくさすってくれていた。
━━━
龍樹が空腹だというから適当に作って出して、自分も食べようとしたけれどいまいち喉を通らない。時間が過ぎて行くにつれて、水樹は落ち着かなくなっていった。
龍樹に、帰って欲しくなかったから。
恋人を強奪して、合わせる顔がないと思っていたのに、結局辛い時に一番側にいて欲しいのは龍樹なのだ。
他の誰とも会いたくないけれど、龍樹にだけはいてほしかった。
そろそろ22時になろうかというとき、龍樹が時計を確認した。それを見た水樹は、ほとんど無意識にパッと龍樹の腕を掴んだ。
「…行かないで…!」
悲痛な叫びを聞いた龍樹は一瞬だけ瞠目して、そしてふっと優しく微笑んだ。滅多に見せない、安心させるような顔。
「行かねぇよ。」
ぽんぽんと肩を叩いて、龍樹は水樹をベッドに誘導した。誘われるままに布団に潜り込むと、龍樹も一緒に入ってくる。
そういえば、なんで龍樹は触れるんだろう。先輩はあんなにダメだったのに。
シングルベッドに男2人。
水樹も龍樹も細身だが、やはり厳しいものがある。それだけ密着しても、嫌悪感はまるでなかった。
兄弟だからかな。
もうなんでもよかった。
龍樹の高い体温ですぐに温まった布団の誘惑に勝てず、水樹はその晩久しぶりにぐっすり眠った。
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