第11話

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「水無瀬から聞いた。」 力の入らない脚でようやくたどり着いた水樹の部屋で、龍樹は口を開いた。水樹はギクリと肩を震わせる。あの時のことを、水無瀬は一体どのように龍樹に伝えたのか、それがただただ心配だった。 龍樹を傷付けたくない。その想いを、彼は汲み取ってくれただろうか。 ドクドクと高鳴る心臓を抑えて次の言葉を待つ。龍樹は言葉を慎重に選びながら口を開いた。 「…首輪…ちょっと力を込めたら、簡単に外れたって。うなじを、見たら…もう歯止めが効かなかったって言ってたよ。…もう随分、古かったもんな…」 龍樹の表情は、苦痛と諦観と、そして少しの羨望があるように見えた。水無瀬のものになることができた水樹への羨望の眼差しだった。 水樹はまた涙が溢れた。 龍樹を傷付けないという約束を守ってくれたことへの安堵と、嘘をつくことへの罪悪感。今すぐにでも謝って全てを教えたい衝動。それができない葛藤。 嗚咽を漏らしながら大粒の涙をこぼす水樹の背中を、龍樹は優しくさすってくれていた。 ━━━ 龍樹が空腹だというから適当に作って出して、自分も食べようとしたけれどいまいち喉を通らない。時間が過ぎて行くにつれて、水樹は落ち着かなくなっていった。 龍樹に、帰って欲しくなかったから。 恋人を強奪して、合わせる顔がないと思っていたのに、結局辛い時に一番側にいて欲しいのは龍樹なのだ。 他の誰とも会いたくないけれど、龍樹にだけはいてほしかった。 そろそろ22時になろうかというとき、龍樹が時計を確認した。それを見た水樹は、ほとんど無意識にパッと龍樹の腕を掴んだ。 「…行かないで…!」 悲痛な叫びを聞いた龍樹は一瞬だけ瞠目して、そしてふっと優しく微笑んだ。滅多に見せない、安心させるような顔。 「行かねぇよ。」 ぽんぽんと肩を叩いて、龍樹は水樹をベッドに誘導した。誘われるままに布団に潜り込むと、龍樹も一緒に入ってくる。 そういえば、なんで龍樹は触れるんだろう。先輩はあんなにダメだったのに。 シングルベッドに男2人。 水樹も龍樹も細身だが、やはり厳しいものがある。それだけ密着しても、嫌悪感はまるでなかった。 兄弟だからかな。 もうなんでもよかった。 龍樹の高い体温ですぐに温まった布団の誘惑に勝てず、水樹はその晩久しぶりにぐっすり眠った。
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