第2話

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水無瀬は側にあった長椅子に水樹を座らせると、部屋に残る陵辱の痕跡を手早く始末していった。 ぼんやりとその姿を見ていた水樹は、借りた上着に残る水無瀬の温もりとフェロモンが心地よくて、再び眠気に誘われる。 うとうとしていると片付けを終えた水無瀬が顔をそっと覗き込んで来て、見慣れたと思っていたその造形がやはりとても美しくて、水樹はハッと意識を取り戻した。 そして途端に、自分がとんでもなく汚いものに感じてしまって、水樹は水無瀬が掛けてくれた上着を脱いだ。 「これ、汚れちゃうから…」 「顔拭いていい?」 「え、聞いてる?」 水樹の言葉には微塵も耳を傾けず。 差し出した上着も受け取らず。 持っていたらしいハンカチで水樹の顔に付いた残滓を拭い出して、それが恐ろしく申し訳なくて。 「やめて水無瀬、汚いから!」 「うん、汚いから拭こうね。」 「違う、汚しちゃうから…」 「落とせばいいでしょ。」 弱々しい抵抗などものともせずに水無瀬は素早く水樹の顔を綺麗にしていく。 この美しい人の持ち物をこんなもので汚してしまっただなんてとても考えたくなくて、水樹はゆるゆると頭を振った。 「汚いよ…」 そう呟いた水樹をどう思ったのかわからない。水無瀬は一瞬間を置いてしゃがみこむと、そこから水樹の顔を見上げた。 ガラス玉のような青い瞳と視線が合う。 「汚くないよ。」 水樹はその青い瞳を凝視する。 ガラス玉のように透明度の高い瞳の中に、情けない顔をした自分が映っていた。 「汚くない。」 何を言われたのかわかっていない水樹を察したのか、再び同じ言葉を今度は少し語気を強めて言った。 青い瞳は揺らがない。見慣れない色の瞳は、不思議な力を持っていた。 「汚いのは、相手の方でしょ。」 そう言うと、水無瀬は水樹が差し出した上着を受け取って、今度は水樹の頭からそれを被せた。視界が暗くなって、水無瀬の顔が見えなくなる。それはつまり、水無瀬からも水樹の顔が見えないと言うことだ。 それはまるで、見ないから泣けと言われているようで。 「……っ、ふ………」 じわりと浮かんだ涙が溢れるのに時間はかからなかった。ぐすぐすと静かに泣く水樹を、水無瀬は決して見なかった。 「写真、撮られ、…」 「相手はわかる?」 「おなじ、学年…名前はしらなっ」 「わかった、なんとかしてみるよ。」 「…た、っきには、」 「うん、誰にも言わない。」 初めてじゃなかった。 きっとこれからだってある。 Ωだから仕方ない。これくらいで挫けていたら、Ωは生きていけない。 そう、思っていた。
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