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あの子
多忙な日常の中に閉じ込められた私は、自分のことしか見てなかった。あの子の姿を見かけなくなったのにも関わらず。
自分のことで、精一杯だった。学校のこと。授業で出される課題のこと。試験のこと。レポートのこと。就職や卒業論文の準備のこと。そしておまけにバイトのこと。望んで大学へ進学して、ここまで来たはずなのに、自分で自分の首を絞めているような気がした。
周りのみんなと比べて、自分はどうか。出だしが遅れてはいないか。劣ってはいないか。みんながやっていて、自分だけやっていないことはないか。そうやって振り返ってみたら、自分のことばかり。
「大学生は主体性を大事にしなければならない」
そうだよね。そうなんだ。よく耳にする言葉。例え誰がどんな状況にあったとしても、最後に解決しなきゃいけないのは、自分自身だ。誰も助けてくれないし、誰も教えてくれない。最後に頼れるのは、自分だけ。そうやって、必要なことを自分でつかみに行かないと。みんな、自分のことで精一杯なんだから。
......つい半年前、一緒にショッピングへ出掛けたあの子。学校で一緒に昼ごはんを食べていたあの子。学校で、話し相手になってくれたあの子。私を、助けてくれたのに。私の支えになってくれていたのに。
「大学生は主体性を大事に」って、本当かな。全て自分で動いて解決しなきゃいけないって、本当かな。大切な人を失ってなお、自分のことだけを考えていればいいのかな。
じゃあ、主体的になれない人をほうっておいていいのかな。
ある日、突然学校を休んだあの子。気にかかった私は、あの子にメールを送った。返事はすぐに来た。今日は体調がすぐれないとか言って、休んでいるらしい。私は「お大事に」とだけ返信した。
それから結局あの子は学校に姿を現さなくなった。やはり、心配になった私は、一週間後にもう一度メールを送った。今度の返事は2日後に来た。「もう少し休めば大丈夫」だと。
あまり詮索しない方がいいかもしれない。その時はそう思って、それから連絡を取らなかった。
その後、1週間しても、1か月たったあとでも、あの子を学校で見かけることはなくなった。気付けば、学校の課題や試験、レポートのことで頭が一杯になっていった。バイトも多忙を極め、自分のことしか考えられなくなった。
「あの子、元気かな」
多忙な生活の中で、ふとあの子が頭によぎることが幾度かあった。でも、自分のことで精一杯な私は、すぐにそれを振り払った。今は自分のことでしか、頭がまわらない。そう現実に引き戻されて、結局あの子にメールすることができなかった。
しようと思えば、いつでもできたのに。
大切なものを失ったのに、
本当に自分のことだけ考えていれば、大丈夫?......
......手を、差し伸べないと。
あの日、一緒に出掛けてくれたあの子。一緒に昼ごはんを食べてくれたあの子。私の話を聞いてくれたあの子。今度は私があの子のために何かしないと。
「―ちゃん、元気?」
私は、半年ぶりにあの子にメールを送った。
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