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昼の暑さを過ぎたが、夏休みの午後は暑い。最寄駅のA市駅、プラットホームで眉の下に手をかざしながら、有沙を探す。
「ねえ、朱莉! こっちだよぉー!」
有沙の声が遠くからした。声の方向に顔を巡らす。有沙は反対側のプラットホームから、手を振っていた。
高校に行くのは、わたしのいる2番ホームだ。通学のクセで間違えちゃた!
プラットホームは駅舎の上にある。一回、スカートの裾を気にしながら、階段を駆け下りる。改札口の駅員さんに事情を話した。
「間違えて反対側に入りました」
改札を出て東名ドーム(東名スタジアム)前駅までの切符を購入する。東名ドームに隣接して、東名スタジアムがある。
分かりやすい駅名だ。野球専用の東名ドームのほうが、約9か月早くオープンしたのだ。サッカーとラグビーが可能な、東名スタジアムは、工期が延びたせいだ。
〈1番ホームに電車が参ります〉
まだ、改札近くなのに、アナウンスが流れる。また、改札を通り、1番ホームへの階段を駆け上る途中で、プシューと電車のドアが閉まる音がした。
わたしは諦めて、手すりを持ちながら、ゆっくり階段を上がる。隣の会社員風の男性は、風のようにプラットホームに行く。
1番ホームに出たら、電車がまた扉を開けていた。人の目があるので、離れたい位置に立つ。
「車掌さんが早く乗ってだってー」
最後尾の車両前で、有沙が叫んでる。その後ろで電車から、身を乗り出す車掌さんの姿があった。
「早く乗ってくださーい」
電車に乗り込んで、閑散とした車内でばつが悪い。駆け込み乗車じゃないのをアピールしていた。
「車掌さんが乗るように言ってくれて、助かった」
大声で独り言を口にする。A市駅は、平日の午後は、一時間に電車が一本でしかない。
数人の視線でも居心地が悪いので、後部車両に早足で歩く。
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