流星の記憶

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「てか、そもそも、なんで天体観測とか好きなん?」  無駄話も挟みつつ、想像の5倍くらいは熱心に観測を続けていた穂高だったが、ふと思いついたように尋ねてきた。  理由を問うのには勇気が要る、ということを知らない子どもなので、問う側に気負いはなく、答える側に誠実さは委ねられていた。それに二人が気付くのも、ずいぶん後になるのだろうが。 「夜中に…」  シュンスケは応える。子どもなりの誠をもって。 「走りたくなるコトないか? ああ、おまえなら投げたくなること、か」  試合前や合宿中、不意に囚われる衝動。焦りや焦燥、というほどのものではない。むず痒い、という感覚が一番近い。居ても経ってもいられずに、寝返りを繰り返す夜。  この頃ではその遣り過ごし方も解るようになってきたが、まだそんなことは思いもつかない頃だった。合宿中、目が冴えて眠れない。どうしようもなくなってこっそり着替え、爆睡するチームメイトをまたいで、シューズを履いて外に出た。 「合宿先、どこだったかな、長野とか山梨とか、そんなかんじ… 初めて行くとこで、さてどうしようかなって。でも到着したときとか、昼間走ったとことか、覚えてる道を何となく…」  適当に走った。とうぜん迷った。 「人通りなんてもちろんないし、車だってぜんぜん、通らなくてさ。気付いたら、見覚えのある道どころか、帰り道もわかんなくなって」 「どうしたん…?」 「夏だったけど、なんもしないと寒いからさ。朝まで、なんとなーく走ったり歩いたりで」 「おおう…」  翌朝、ようやく出会った通行車に助けを求め、なんとか合宿所に帰り着いた。無論、大騒ぎになっていて、それはもうこってり絞られたのだが、その時のコーチがそっと教えてくれたのだ。 「星の位置で方角がわかるから、迷ったら空を見ろって」 「ああ…!」 「合宿所が日本のどこにあっても、なんなら海外だって、北半球なら北極星を見つけろって」  自分が何処に居るか、何処に行くべきか。  夜空が教えてくれた。 「だからまあ、ついでみたいなもんで」  うちからもこんだけ見えるし、合宿所って田舎多いだろ? と言い訳のように続けながら、シュンスケはそれでも思い出す。夜空に見慣れた輝きを見つけた瞬間、心許なさが消える感覚を。  何より”日本中のどこであっても”見える、というのが良かった。  ココ と ソコ が離れてしまっても。  普段の勉強はさっぱり好きになれなかったが、夢中で覚えた。おかげで一通りの知識が身について、ちょっと理科の成績が良くなったのはご愛敬だ。ついでに地理も覚えたので一石三鳥でもある。  そんなことをとりとめもなく語るシュンスケを、彼は珍しく黙って見詰めていたが、最後に、 「そっか。それは、いいな」  そう、ちいさくわらってうなずいた。  きっとそれで、良かった。
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