流星の記憶

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「はあ?! 野球部?」 「うん、そう」  と、当たり前のように首肯した穂高に、シュンスケはしばし絶句した。てっきり同じく陸上部に入るものだと思っていたのに、練習に現れないので(スポーツ推薦の生徒は入学前から練習に参加するのだ)白昼夢か学校違いかと不安になっていたのだが、入学してみればクラスにその顔を見つけた。ほっとしてから勢い込んで問い糾すと、彼はなんと硬式野球部員だというのだ。  よりによって野球部、とは。  この学校の野球部は超が付く強豪で、校内ヒエラルキーの最上位にいる。プロ選手も多く輩出し、実績はもちろん、歴史やら大人の事情やらも絡んで、望むと望まざるに拘わらずそれは事実だった。  つまり、それだけ過酷な部活だということだ。  そもそも、レギュラになれる人間は限られている。方言からしてわざわざ留学して来ただろうに、そんな有象無象の輩が集う場所で、この身体能力は高いが温厚そうな少年がやっていけるか甚だ謎だった。厳しい現実に、あっという間に脱落してしまうのではないか? と他人事ながら心配したシュンスケだが、まあそれならそれで宗旨替えを勧めるチャンスも早々に来るだろう、と前向きに考えたりもした。  が。  違った。  穂高はそこいらの球児に埋没することがない、本物だった。足も速いが投げる球も速い本格派右腕、鳴り物入りの新入生だったのだ。ちょっと聞いただけで、硬式野球部の新入部員情報なら簡単に手に入る。中学時代はシニアで全国大会入賞、50を超える野球強豪校から声がかかり、大阪の某強豪校など監督直々に勧誘があったという。  それから情報がもうひとつ。  中学時代に全国大会優勝投手になり、東日本ナンバーワン左腕だとかいう新入生もいた。柳澤圭一郎という大柄な少年は、ちょくちょくシュンスケ達のクラスにも顔を出し、穂高と仲の良さを見せつけて(?)いった。  シュンスケは臍を噛んだ。  陸上部の活動もメンバも充実してはいたけれど、長距離では穂高ほどの走力を持つ同級生は居なかった。だから、体育の授業や部活のアップでたまに穂高と一緒になると心が逸った。そしてその都度、なぜ野球なんかやっているのかと思ったものだ。(実際に口にも出した。)  そしてたまに想像した。強力なライバルも居るようだし、もし穂高がエースになれなければ… ひょっとしたら伸び悩むかも知れないし… というところで、さすがに我に返った。シュンスケとしても別に穂高の不幸を願っているわけではない。  …訳ではない。  はずだ。  ただ、共に走れないことが淋しかった。  どうしようもなく。
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