流星の記憶

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「まあ、ヤナギとマサハルがいなくてよかったねぇ」  ミズキの声がするりと滑り込んできた。タカヒロは片眉を上げる。 「…なんで」 「や、なんか揉めそうだから」  過保護でしょ、あのひとたち。  そう言って、ミズキはにこりと微笑んだ。  あの人たちとは、左のエースと前正右翼手のことだろう。その言葉にはどこまで含まれるのか、タカヒロにはよく解らない。地味につかみ所がないのだ、この左隣の相棒は。右隣の相棒であるトオルが、まったく単純明快、裏表無しのタイプだから余計にその差が際立つ。  全国各地から俊英が揃い、個性派の巣窟である野球部だが、意外なほど仲が良い、と見られていた。しかし非常にうっすらとではあるが派閥が存在する。  県内出身の左腕と中学時代から同じボーイズのタカヒロやトオルを中心とする地元組と、右腕と関西選抜や全国大会で知り合ったマサハルや四番のリョウタなどが核になる留学組と。ただ、トップの二枚看板が誰より一番仲が良いので、垣根の高さが限りなくゼロに近いだけだ。  そして右左腕とは別に、第三極を形成しているのがミズキである。  ミズキはこの学校の近所で生まれ育ち、四兄弟の末っ子だった。  一番上の兄は硬式野球部で主将を務め、二番目はセンバツ準優勝の時のレギュラ、三番目は首都圏の野球強豪校でクリンナップを担い、いずれも甲子園出場という正真正銘の野球エリートだ。その冷静な判断力と情報収集・処理能力への信頼は半端ないが、おかげで部員の誰より、下手をすればコーチより野球部に詳しく、人脈と情報網の全容が知れない。野球つながりの知り合いを辿れば4人目までにミズキに辿り着く、とは前正捕手・岡の談である。  とはいえ、左右のエースと等距離に仲が良く、違うバックボーンを携えた有能な内野手は、主将としては非常にありがたかったのも事実だ。なんせ二枚看板に説教、もとい意見が出来る人間は限られている。副キャプテンとしてチーム内外の調整弁を担ってもらっていたミズキには、タカヒロであっても少々頭が上がらない。  そして、こういう妙に鋭いところが厄介だった。 「別に… 揉めないだろ」  いや、居たらゼッタイに揉めるだろうと思うが、ここはしっかりと否定しておく。それに「そうねえ、そろそろ子離れしないとだしね」と相槌を打つミズキだったが、きっと自分の心づもりくらいは見抜かれてるんだろう、とタカヒロは思った。 「ま、明日、コバが帰ってきたら、ランニングとか美人のおねーさんの感想とか聞こっか」  ミズキはそう言うと、やっぱりニコリと笑った。
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