流星の記憶

6/13

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「なんかさ、断りもなく冬が来た感じするよな」  彼のその言葉に、シュンスケは思わず顔を顰めた。 「なにその感想」 「いや、今年は秋大出てないし、なんか夏が続いてた感じで… 秋、あったっけ? と思うて」  秋の記憶がない。と言うと、穂高はちょいと首を傾げた。  彼がそんな事を言うそばから、鋭く乾いた夜風が二人を追い越していく。密度と温度の低い風に、シュンスケは思わず首を竦めた。走っている時の彼らであれば木枯らしに追いつかれることなどないが、今はほどほどの歩調で坂道を登っていた。 「秋、ふつーにあったろ。夏が長かったの、おまえらだけだし」 「うーん、そっか… あ、巨峰食べてないからか!」 「そこかよ」 「秋刀魚は食べたけど」 「おまえの秋イメージってそんだけ?!」  鮭と梨と栗は聞かねえぞ、と念を押し、シュンスケは先を急ぐフリをした。  当初意外だったのだが、穂高は相当なおしゃべりである。更には他人のおしゃべりへの参画率も高い。『大阪のおばちゃん』という生きものとの共通点を見つけて、かなり衝撃的だった記憶がある。外見との差が激しいだけに。(正確を期せば、同じ関西圏といえど大阪と京都の溝は日本海溝程度に深いが、門外漢のシュンスケにとっては区別がつかない。)今日の彼も、シュンスケの家に来る間から、到着してから、夕飯の時、そして今とひっきりなしに喋っている。  ただ、話題の幅が広いのには改めて驚かされた。これだけ野球しかやっていないわりに、部活以外のクラスや学校の話だけでなく、遠征先の話はドラマティックに、トレーニングについてはシステマティックに語ったりする。スポーツ紙各社の取材方針の比較などはかなり興味深かった。まあ、その話題の多くに柳澤圭一郎の名前が出て来てシュンスケを苛立たせたが。  今ごろになって思い知るそんな些細なことでも、きりきりと脇腹に差し込まれるようだった。  シュンスケが微かに俯いていると、いつの間にか話題が変わっていた。 「冬の星座なんて、オリオン座くらいしか知らんなあ」  なるほど、季節の話はここに繋がっていたか、とシュンスケは本来の目的も思い出した。 「それがわかんなら、冬の大三角形も覚えてるだろ?」 「え、さんか… んー、ん? あ、あれか、シリウス」 「正解」 「あとなんだっけ、ベテルギウスと、プロ… プロト…?」 「プロキオン」 「それや!」  北極星とかも覚えとけよ、中学の理科の授業でやったろうが、と突っ込みながら、上げた視線の先に目的地が見えた。 「着いたぞ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加