流星の記憶

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 生垣の割れ目から敷地内に侵入し、そこだけ鍵が壊れている通用口隣の窓を開け、室内の様子を確認していると、穂高がぽつりとこぼした。 「これ、不法侵入と違うか」 「人聞きの悪いこと言うな、違うって」  たぶん、とシュンスケが小さく付け足すと、「やっぱビミョウやないか」と眉尻を下げているだろう声がした。もちろん無視する。  二人が今いるのは、シュンスケの家から暫く歩いたところにある小学校で、彼の母校だ。少子化の余波でシュンスケが卒業した後に近隣の小学校と統合されて廃校になり、今では地域活動用の施設として再利用されている… のだかいないのだか。放置はされていないが管理も中途半端で、宙ぶらりんな状況だった。  そしてそれ以前に、夜の小学校に他に誰の気配があるわけもない。 「夏の間なんか、花火とかやりに来る連中も多いぞ。公然の秘密… じゃなくてなんだっけ、公共の施設?」 「違うと思うなァ」  穂高の声を再度無視して、シュンスケはそのまま窓枠を乗り越え、そっと校舎内に侵入した。いちおう、先月ひととおり確認してはいるのだが。  がらんとした空洞に彼のスニーカが立てた音が響く。窓もドアも今通う校舎に比べてずいぶん小振りだ。穂高が彼と同様に窓枠を乗り越えるのを見届けると、シュンスケは廊下側の引き戸を開けた。  新月が近い今夜、月明かりは期待できない。非常口を示す緑の光だけがちらちらと見える。  足下を照らす懐中電灯の円が、心許なげに揺れた。  校舎の中を土足で歩くのはどこか罪悪感というか、背徳的な感じがした。  二人の微かな足音が、無人の校舎を浸食してゆく。 「こっち」  穂高を促して、蹴上げの低い階段を一段飛ばしで上がる。校舎は四階建てで、その昔、高く遠い気がしていた屋上まではあっという間だった。  屋上に続くドアノブを掴んだ瞬間、鍵が掛かっているかもという可能性がシュンスケの脳裏に閃いたが、いまさら考えても無駄だった。ノブを思い切って回すと、ありがたいことに難なく開く。  ひやり、と先ほどより更に冷えた空気が頬を撫でる。  二歩、三歩と進めば、冬の大気が身体を包むのがわかる。 「あ…!」  シュンスケの背後から、彼の感嘆符が聞こえた。  頭上には満天の星空、は望むべくもないが、都会の片隅にしては立派な夜空が広がっていた。
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