流星の記憶

8/13
前へ
/14ページ
次へ
 星を見よう、と。  穂高にはそう言った。ふたご座流星群も近いし、冬は夜空が美しいからと。 「へえ、天体観測」  佐倉にそんな趣味あったんか、と。相変わらずのんびりと応えて穂高は承知した。ただシュンスケの自宅の場所を聞いて、「え、それ、行き帰り走るとか言う?」とおののいていたが。  もう、彼と走る必要は無かったので、やんねーよと軽く応え、とにかく防寒対策だけはして来いと厳命した。屋外での活動にはイヤというほど慣れているだろうが、観測や観察、観戦など見るだけの行為は想像以上に冷えるのだ。  ひとしきり夜空を見上げたあと、二人は、屋上の片隅にあった誰が置いていった段ボールやら、持参したシートやフリース、ダウンケットを出して観察に備える。今日は望遠鏡等の装備は不要だ。ただ、懐中電灯の下に星座早見表を取り出し、シュンスケは穂高に概説する。 「稜線が見える方が西、イ○ンの看板がある方が南だ。つーことは、東は」 「あ、あっちか」 「そうそう。で、さっき言ってたオリオン座は… 今は12月上旬だからこの時間…」  とシュンスケが有名どころを解説するのに、彼はふんふんと真面目に頷く。そういえば以前、地図を見るのが好きだと聞いたことがあるが、地理や空間を把握する能力には長けているようで、すぐさま飲み込んだ。 「はー。ほんまに冬の星座って分かり易いなぁ」 「空気が乾燥してるし、今日は新月だしな」 「そう考えると、月って明るいにゃなあ」 「だから流星群観察には最適なんだよ」  なるほど、そーいうことか、と感心しながら星座早見表を覗き込んだ穂高の額は、シュンスケのすぐ目の前にあった。野球部引退後、坊主頭からいくらか伸びた真っ黒な前髪は、少し揺れれば触れそうなほど。  もう、2センチもない。  シュンスケはすっと身を引いた。懐中電灯の輪から外れた自分の影が大きく動くのを感じながら、敷物やケットを忙しく広げるふりをする。そして穂高を促すと、ありがと、と言いながら彼もダウンケットにくるまった。結局、少しでも暖を取ろうと二人の距離は近付く。  そうして、並んで空を見上げる。 「流れ星って、そんなカンタンに見えるもん?」 「見える。てか、べつに流星群じゃなくても、粘ればふつーに見られるぞ」  とシュンスケが言うなり、夜空の片隅にきらりと細く星が流れるのが見えた。   吸い込まれそうな深さと透明度に、   濃紺の天蓋へ昇ろう   もし、降る星に祈るとして いのるとして、   なにを
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加