港へ

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「え…でもなんで」 「谷さんは、アルファはオメガを対等に見ていないと言われますが、それも当然でしょう。オメガこそ、己の性欲に忠実に生きることを良しとしているのでは?フェロモンをふりまき、アルファを誘惑し、そのアルファが好ましい相手であろうと無かろうと、発情に応えてくれれば誰に対しても股を開いている本能的な生き物です」 「は?」  彼女の言葉に、思わず眉間に皺が寄る。手の筋肉がぐっと固まる。 「確かに、身体が傷つき、産みの苦しみを味わうのはオメガです。が、アルファを性的に突き動かしているのはオメガの発情やフェロモンの影響です。ですから、そうやって被害者面でアルファを責めるのは、お門違いではないでしょうか」  勢いに任せて右手を振り上げる。しかし、残った理性で踏みとどまり、とどまったままの力で強く拳を握る。 「…クッ」  その拳を、何もない空中へと振り下ろす。何も言えず、奥歯をキツく噛み締める。藤乃宮さんは真顔に戻り、軽くうつむく。 「…申し訳ありません。さすがに言い過ぎました」 「…いや…」  なにか答えるべきだが、言葉が出てこない。悔しくて深いため息が出る。 「話が逸れました。私が話したかったのは、そういうことではなく。谷さんは、カルチベイトに所属されていたのですよね?」 「…はい。それが何か?」  気を取り直そうとするが、彼女を見ることができず、地面を見つめたまま答える。 「カルチベイトで、ある人物を探しています。谷さんは、タケダ ショウイチロウという人物をご存知ですか?」 「たけだ…?」  よくありそうな名前だが、カルチベイト内でもそれ以外でも、そんな名前の知り合いはいない。 「いえ、知りません」 「そうですか」 「その人が何か…」 「いえ、ご存知でないのでしたら大丈夫です。ありがとうございます」  藤乃宮さんの声色がいつもよりも重くなる。 「お時間取らせてしまい申し訳ありません。私は、これで失礼します」  言うと軽く一礼し、俺に近づく。そしてそのまま、俺の脇をスッと過っていった。
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