港へ

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「いや、ちょっと待ってください!」  そのまま去ろうとする藤乃宮さんに、俺は声を上げる。藤乃宮さんはぴたりと止まり、こちらを振り返る。 「それだけですか?」 「…はい?」 「もしかして、それを聞くために、今まで俺に話しかけてたんですか?」  藤乃宮さんの視線が一瞬外れるが、直ぐに俺に向き直って答える。 「…そうなりますね」  別に、彼女に何か期待をしていた訳じゃない。そのはずだが、なぜか彼女の淡々とした返答に傷ついている自分もいた。 「ですが、それだけではありません」 「…何ですか?」  明らかに苛立ちを表す俺に対して、藤乃宮さんは動じずに言う。 「貴方のことを、知りたいと思えたからです」 「知りたいって?」  怪訝な表情で聞き返すと、彼女の目が少しばかり揺らいだように感じた。 「頑なに首を守っている理由。カルチベイトにいた理由。その他いろいろ…です」  言われて思わず、首元のプロテクターに触れる。頭の中でモヤモヤと黒いモノが漂う。 「…そんなこと、あなたに話す筋合いはありません」 「そうですね…」  言い淀みつつ、彼女は背筋を伸ばした。 「不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」  そして一礼をし、そのまま踵を返して去っていった。俺は何も言えず、その様子をただ見つめていた。
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