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藤乃宮
「人事総務統括…取締役!?あ、補佐か」
「谷さん何ブツブツ言ってんの」
藤乃宮さんの社員情報検索画面を見ていると、背後から突然声がして俺は「うあっ」と焦る。振り返ると、営業の山内さんがネクタイを緩めながら画面を覗きこんでいた。
「ああ、藤乃宮嬢か」
「知ってるんですか?」
「むしろ知らない方が驚きだよ…一応上層部の人だからな。会長の親族だから若くしてポストについてるけど、アルファだから実際能力も高くてデキる人らしい」
「会長の親族…」
歴史ある会社だからか、上層部の取締役クラスの人間は会長の血縁で固められている。しかし、単なる贔屓ではなく、きちんと能力を買われた上での人事である。
「そういや最近、谷さんターゲットにされてるよな」
「ターゲット?」
「藤乃宮嬢の番候補」
「は!?」
山内さんの話によると、藤乃宮さんは子供が欲しいらしく、そのために番となるオメガを探しているのだとか。しかし、良く言えば「クールビューティー」、悪く言えば「顔は良いのに何考えてるのかわからない」彼女についていけるオメガはなかなかいないらしく、意外と苦戦しているそうだ。
「今までは社外でオメガを漁ってたのに、ついに社内で動き始めたかって総務の中では話題になってるらしいぞ。ま、頑張れ」
「頑張れって何ですか」
「玉の輿のチャンスだろ?」
「いや別に俺、番も子供も欲しくないんですけど」
「そういやそうだったな。それなら早いうちに、藤乃宮嬢に伝えた方がいいかもしれないぞ」
と、ここで山内さんが課長に呼ばれ、この話はここで終わった。
確かに、藤乃宮さんと番になれば、生活面ではほぼ安泰と言えるだろう。だが、藤乃宮家のしきたりとかそういうのが何か面倒そうな気がする。それに俺は誰とも番になりたくないし、子供も産みたくない。俺の将来を心配してる両親には申し訳ないが、これが今の俺の正直な気持ちだ。
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