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16・不可解な感情
「リウ、“したくなった” 理由がわかるか?」
ライトは俺の頬にハンカチを押さえながら、聞いてきた。
「理由……? 」
濡れたハンカチを押さえているライトの手の上に、指でそっと触れた。
「ただ……その、ム、ムラムラしてただけなのか? ……他に理由があるのか答えて」
ライトの顔をジッと見ながら考え、答える。
「……よく、わからない」
ライトも俺の顔をジッと見ていた。すると、ため息をつき少し横に顔をそらした。
「じゃあ……分かったら、言って」
暗くなって公園の明かりがついた。
ライトは何か言いたそうだったけれど、唇をキュッと結んで黙ってしまった。
「分かった」
ライトの手の甲を撫でた。
ライトは一瞬、ビクンと体を動かして俺の頬からハンカチごと手を離した。
「ほら! ハンカチを貸すから自分で冷やしとけよ! 」と言って俺の手のひらに濡れたハンカチを渡してきた。
「じゃあ! またな、リウ」
「あ」
そのままライトは走って帰ってしまった。
携帯で今日のお礼を送った。
『今日は楽しかった。ありがとう。……公園では悪かった。理由が分かったら言う。お休み 流水』
_____________
眠る前に、なぜライトに “キス” をしたのか考えた。……というか、体がかってに動いたから説明できない。
初めはライトの瞳をよく見ようと近づき過ぎて、距離感を間違えた。
「その次は? 」
……。 ……。 確かにムラっとはしたが、やつは男だ。 ……?
「分からない」
ライトの顔が、笑い顔が浮かんでは消えてまた思い出していた。
ベッドに飛び乗って枕に顔を埋めた。
「駄目だ……。眠ろう」
目をつむると睡魔が襲ってきた。
-今度は俺の家に遊びにきて、ライト。
__________
月曜日の朝、ライトに会うのが怖かった。
嫌われたか? もう会わない と言われたら俺は……。
「お早う! リウ! 」
向こうからライトが走って俺の側に近づいて挨拶をしてきた。変わらないライト。俺は内心ホッとしてライトに挨拶をした。
「……お早う。昨日はありがとう。あと、……悪かった」
ライトは俺の顔を見て、
「頬は腫れてないようだな? 少し赤いくらいだ。痛かっただろう? 」
そっとライトは殴った方の頬を指先で撫でた。心配そうなライトの顔。俺はなぜか胸が痛かった。
「平気だ。……ライト、その……」
俺はライトに話しかけた。
「なに?」
ライトは俺の頬から指を離した。頬から離れたライトの指をパッと掴んで、
「イヤじゃなかったら……今度、俺の家に遊びにきて」と言った。
びっくりしたライトは俺の掴んだ手と、顔を交互に見ていた。
「お、おう! 行く! 行くよ! 」
ニカッと笑って言った。
「楽しみにしてる」
そう言って互いに学校へ向かった。
学校に着き、靴を履き替えていた。
ライトを家に呼ぶのは、いつ頃が良いか考えていた。父はいつも居ないが、母が長期出張している時がいいなと思った。
「お早う、高梨さん」
考え事をしていたので、関根がいたのに気が付かなかった。
「関根」
横を通り過ぎようとしたら一緒に歩いてきた。まあ、同じ教室だから向かう先は一緒なのだが。
「……金曜日にあった人って他の学校の友達? 」
関根が話しかけてきた。
「……ああ」
そういえば金曜日にファミレスで、関根もライトを見かけたな。
「どうして知り合ったの? ⚪×高校の人?」
やけに聞いてくるな。
「ああ」
高校の名は合っていたので返事をした。
「……なんで……? 」
関根は歩くのをやめて立ち止まった。俺は気が付かず歩いていた。
「高梨さん…… 」
関根の声は小さくて聞こえなかった。
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